戻る



フィル: +++

「別にそんな難しく考えることじゃないよ。フィルにだって──といっても、口で説明するのは無理があるな……。う~ん、実際に誰かを好きになってみれば簡単なことなんだけど……」
 朋也はそこで、樹の精である彼女に〝人を好きになる気持ち〟を体験させるとっておきの方法を1つ閃いた。
「ねえ、フィル。よかったら、試しに今から俺と恋人になってみない?」
「えっ!?」
 彼の申し出にフィルは一瞬目をパチクリさせてから、抱きかかえた両膝の上に顎を乗せてポツリとつぶやいた。
「でも、朋也さんには千里さんやミオさんがいるのでは?」
「千里は友達だし、ミオは家族だよ。だから、今の俺はフリーってこと♪」
 太鼓判を押して彼女の疑念を打ち消す。朋也としては頭ごなしに断られることも覚悟のうえで提案したつもりだったので、あの2人のことを持ち出されたのは意外だった。案外、脈があったりして……。
「まあ、試しにってのは言い方がよくないよな。正直に告白するよ、俺……フィルのこと気に入っちゃったんだ。君さえよければ付き合って欲しいんだけど、どうかな?」
 フィルはまだ下を向いて戸惑いを見せていた。
「私……どうお答えしていいのか……。確かに、エデンでは異なる種族の者同士が愛し合うことも可能ですが……。私は森の精……あなたとの距離は大きすぎる……」
「まあ、そんな堅苦しくならずに気楽に考えてくれていいんだ。ボーイフレンドってくらいでさ♪ フィルがメッセンジャーとして動物を理解する一助になればそれでいいし。もっとも、好きになれったってなれるもんじゃないんだから、君に好きになってもらうためには、俺が努力しなきゃいけないんだけど……」
 自分で口にしておいてなんだが、学究肌の彼女を自分が落とすのはかなりタフそうだと気を引き締める。
「それと……誰かを好きになるって気持ちは別に動物の専売特許じゃないと思うんだ。動物も植物もルーツをたどれば同じなんだろ? きっと、2つの性が岐れて、この世に男と女が生まれた時から、〝好き〟っていう気持ちもあったんじゃないかな? さっきフィル自身も言ってたじゃないか。君たちはいろんな方法で子孫を殖やせるけど、2つの性が交わるのはやっぱり特別な重みがあるって。俺たちが花を見てきれいだなって感じるのは、虫たちを誘うために目立たせてるってだけの理由じゃないと思うんだ……。木や竹で何十年かに一度、一斉に花を咲かせる種類があるって聞いたけど、その時の〝気持ち〟って、案外俺たちに近いんじゃないかな?」
「……私がその〝逢瀬の時〟を引き合いにすると、木々たちも少しは動物のことに理解を示してくれるんですよ。朋也さん……やっぱりあなたって……」
 しばらく黙って彼の顔をじっと見つめてから、嬉しそうに微笑む。
「私……人を好きになるレッスンの初歩はクリアできたみたい」
「そ、そう? ハハ……役に立てたならうれしいよ」
 頭を掻きながら照れ笑いする。そんな顔して見られると、こっちの〝好き〟はどんどんステップアップしちゃうなあ……。
「ずいぶん長いこと話し込んじゃったね。明日のこともあるし、今日はもう寝ようか?」
「ええ」
 焚き火の残量を確認し、鉱石を付け足す。朝までは何とかもつだろう。エメラルド号を風除けにし、2人で頭を向け合って横になる。しばらくしてフィルがポツリとささやいた。
「……朋也さん?」
「ん?」
「こうして2人で枕を並べて寝ていると、私たち新婚さんみたいですね」
 ブッッ(--;;;;;; 真面目な顔してそんな鼻血出そうなこと言わないでくれよ(T_T)


次ページへ
ページのトップへ戻る