翌朝、2人は日の出とともに起き出した。さすがにP.E.で強化された制服を着ていても、寝袋もなしの野宿では十分睡眠をとれたとは言いがたかったが、気分はすこぶる軽かった。たぶん、夕べ2人で交わした会話のおかげもあるだろう。
昨日クルルに分けてもらっていたビスケットを胃に流し込み、焚き火を始末したのを確認した後、エメラルド号で沢沿いに南に進み、吊り橋の先で道に上がった先にあるモルグル峠の出口を目指す。
地峡を抜けてテレッサ平原に入ってからは再びスピードを上げる。ここを通ってオルドロイ神殿に向かったのはほんの数日前のことなのに、なんだかひどく懐かしい感じがする。それだけ、濃密な時間を過ごしてきたという証拠ではあるけれど。
ユフラファとビスタを過ぎれば、クレメインまでは目と鼻の先だ。装備はとりあえず足りていたし、昼前にはクレメインの現場に入りたかったので、2つの街に寄ることはしなかった。ユフラファのウサギたちの様子は気になったが、きっとトラの3人の子分たちがうまくやってくれてるだろう。
ついに鬱蒼としたクレメインの木々の連なる梢が視界に入ってきた。朋也たちの旅の出発点であり、フィルと初めて出会った記念すべき場所でもある。いま危機に見舞われているこの森を、朋也はなんとしても救いたいと思った。フィルの指示に従い、森の中央の広場にそびえる神木の近くで、エメラルド号で乗り付けられそうな場所を探す。放射状に森を貫く道を走り、吊り橋のある沢を避け、ゲートへ通じる道に出る。神木の広場に向かう枝道に入って少し進んだところで、2人はエメラルド号を降りた。
途端にガサガサと下藪がうごめいたかと思うと、件の人面疽アリが飛び出してきた。すかさず傘でぶったたいて何とか仕留める。
「こいつはヤバそうだな……」
「急ぎましょう!」
2人は広場に向かって駆け出した。