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リルケ: --
* ベストエンド不可

 リルケが苦戦しているのはわかっていたが、いまは子供の安全を最優先するしかない。彼女も自業自得だということはわかっているだろう……。
 目を背けるようにその場を離れ、エメラルド号のエンジンを入れる。
「お姉ちゃん、置いてっちゃうの?」
 ネコ族の男の子が心配そうに振り返る。胸がチクリとしたが、未練を断ち切るようにスロットルを噴かす。
 朋也はすぐに間違いに気づき、あわててスピードを落とした。サイドカーのシートの上で、男の子の身体が上下に激しく揺れ、今にも振り落とされそうになったからだ。何せまだ幼稚園にも上がっていないような年頃だ、しっかり掴まるように言っても限度がある。しまったな……シートベルトもチャイルドシートもないし。これじゃ時速20キロも出せない。そんなトロトロ走っていたらポートグレーに着くのに朝までかかってしまう……。
 思案の末、結局リルケの手を借りるしかないと、途中でUターンしてアントリオンのところへ戻ることにした。まさかやられてないよな? 彼女を凶悪なモンスターのもとに1人で残してきた悔いが胸のうちに膨れあがる。
 ほどなく現場に戻ってきた。リルケはどこだ!? 砂漠の暗がりの中で目を凝らす。と、巣の縁の近くで幽鬼のように立ち尽くす彼女の姿が見えた。ライトを当てられてまぶしそうに顔を背ける。
「リルケッ!!」
 エメラルド号を降りて走り寄ろうとし、途中でハッと足を止める。リルケは全身触手による痣だらけだった。いつもと同じ無表情を装っていたが、明らかに憔悴しきっている様子だ。彼女のことだから負けることはないだろうと思ってたけど、やっぱり残って加勢してやるべきだったな……。
「どうして戻ってきたんだ?」
 訝しんで尋ねる。
「いや、それが、その……」
 朋也が返事に窮していると、男の子が飛び出していき、彼女に抱きついた。
「お姉ちゃん!」
 誘拐した張本人だとはいえ、自分を護るために彼女が身体を張って戦ったのはわかるのだろう。リルケは今まで見せたことのない柔和な笑みを浮かべ、泣きべそをかくネコ族の子の頭を優しくなでた。
「……そういうわけだから、一緒に街へ帰ってくれないか?」


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