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 カイトの声──上のほうからだ。みんなして、どこだどこだ!? とあちこち見上げる。なんだか自分が悪の組織の戦闘員にでもなった気分だ……。
 いた、あそこだ。5階建てほどの高さのある神殿のてっぺんに立ってこっちをじっと見下ろすネコ族のシルエット。折しも、東の水平線から昇ってきた朝日が彼の雄姿をまぶしく照らし出す。朝日を浴びて真っ赤なマントが鮮やかに翻った。あんにゃろ~、こういう登場の仕方をしないと気がすまないらしいな……。
 彼は扉から離れて身構えた朋也の前に、ひらりと一跳びで着地した。
「このキザネコ野郎! ご主人サマを一体どこへやった!?」
 ジュディが前に出て噛み付くように唸る。
「まあ、そうあわてることはない。皆既日蝕が始まる時刻までにはまだ間があるからね……」
 いつもの調子で答えをはぐらかすと、パーティー一同を見回す。
「……おや? 彼女の姿が見えないね?」
 朋也は顔を背けるように足元を見て答えた。
「ミオは……船に乗り遅れて──」
 カイトはそれを聞いてしばらくキョトンとしていたが、やがてこめかみに指を当てて愉快げに笑い出した。
「乗り遅れただって!? フ、フフ……アハハハ! いやはや、なかなか楽しませてくれるヨ、彼女は♪ やっぱり僕の恋人に相応しい人はこうでなくっちゃいけない……」
 ムスッとしている朋也にお構いなしに笑い続ける。
「ま、直にその愛らしい姿を見せてくれることだろうけど……。それもたぶん、思いもよらぬ所からね♪ フッフフ」
 自信たっぷりに言ってのける。いくらミオだって、羽も生えてないのにどうやってレゴラスまでやってくるっていうんだ? 無理に決まってるじゃないか……。朋也はイライラしながら本題に入って問い質した。
「カイト、教えてくれ! やっぱり君はキマイラの命令で動いているのか? 千里を一体どうするつもりなんだ? これまでのことはすべてキマイラが仕組んだことなのか!?」
「そのとおり。オルドロイの一件も、裏で動いていたのはキマイラだ。ニンゲンの女性を生贄に捧げれば紅玉とフェニックスを復活させられるとベスに吹き込んだのは、他でもないこの僕さ」
 カイトはすました顔で事件の真相を詳らかにしてみせた。大方のところは想像がついていたが、これでトラもベスも利用されていただけだったという事実がはっきりしたわけだ。
「それじゃあ……村のみんなを皆殺しにしたのも、全部あなたの──!」
 クルルが今までになく激しい怒りの感情を露にした。
「ベスはお前の口車に乗せられただけだったんだなっ!? 許せないっ!!」
 ジュディも。
 そこでカイトの目つきがにわかに鋭くなる。
「……ウサギ族のお嬢さん。僕だって徒に血を流すことを好むわけじゃない。それは神獣とて同じこと。人柱は本当に必要だったんだ。ゾンビと化したフェニックスに霊力を取り戻させる手段は他になかったのだから……。君は恨むべき相手を間違えているね。慈愛にあふれた穢れなき神鳥を、命を貪るおぞましいバケモノに変えてしまったのは、ヒト族じゃないのかい?」
「確かに悪いのはニンゲンかもしれないけど、朋也や千里には何の罪もないじゃない! これ以上ひどいことするのはやめてよっ!!」
「そういうわけにもいかないのさ。千里君に協力してもらわないことにはすべてが始まらない。紅玉の再生がかかってるんでね……」
「何だって!? でも、ベスは千里をオルドロイで生贄に捧げようとしたけど、ルビーのアニムスを復活させることなんてできなかったじゃないか!?」
「そりゃそうさ。我々の力でアニムスを再生させることなんて出来るわけがない。そいつが可能なのは神獣だけだ。ただし、紅玉の封印を解いた種族、それも神鳥の霊光を浴びた〝鍵〟である彼女がアイテムとして欠かせないがね……」
 そういうことか……カイトとリルケが手の混んだ真似をしてわざわざオルドロイの一件を仕組んだのも、すべて本番前の下準備に過ぎなかったというわけだ……。
「カイト! 俺、トラに約束したんだ……。誰かを犠牲にするような、誰かが不幸になるようなやり方は絶対間違ってるし、他に方法があるはずだ! だから、そんなやり方はやめさせるし、代わりの方法をきっと見つけてみせるって……頼むから考え直してくれないか?」
 朋也は必死になって懇願したが、カイトはうんざりしたように首を振った。
「僕はヒト族としては君を高く評価しているつもりだが……神獣をさし措いて世界を救ってもらうことまではとてもあてにできないよ。実を言うと、今回の皆既日蝕は特別でね。アニムスを復活させるのに必要な月蝕と日蝕が連続して起こる機会というのは、今日を逃すとあと100年は訪れないんだ。それまでエデンがもつと思うのかい?」
 一介のヒト族にすぎない自分には、彼の言い分に反論する余地はない。だが、前駆形態の頃から誰にも擦り寄ろうとしなかったカイトの口からそれを聞かされるのは、しっくり来ないものがある。
「……カイト、さっきから聞いてると、お前すっかりキマイラの代弁者気取りだな。俺の知ってるカイトは、他人に尻尾を振ってついてくような奴じゃなかったぞ? いつから神獣のイヌに成り下がった?」
「どうでもいいけど、そこでボクたちの悪口引き合いにするなよなっ!」
 ジュディが舌打ちしてジロリと朋也をにらむ。確かに言われてみりゃ、忘恩も甚だしい慣用句だな……。自戒せねば。
「ごめん、今のは失言」
 カイトはしばらく彼の目を見つめていたが、低く笑って言った。
「フッ……さすがだな、朋也。君にはつくづく感心させられるよ。ミオが君に興味を覚えるのも無理はない……。もちろん、察してのとおり、これまでの話は全部キマイラの受け売りで、僕の考えじゃない。彼の忠実な下僕のふりをするのも、ルビーのアニムスを取り戻すまでの間だけさ。その後は──」
 彼はそこで神殿に振り仰ぐと、両腕を広げた。
「キマイラを倒し、ルビーとエメラルド、二つのアニムスを我がものとする!!」


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