「!! 何だって!? バカな…そんなこと、できると思ってるのか!?」
朋也は耳を疑いながら、かすれた声で尋ねた。
「おやおや、誰も犠牲を出さずにエデンを救うなどという君の裏づけのない無謀な計画よりは確実性はあるつもりだが? 僕はロマンチストじゃないんでね……。実はね、彼は隠してはいるが、キマイラの身体はモノスフィアからの脅威を防ぐのに力を使い果たして、もうボロボロなのさ。この上、アニムスの再生に残りの生命力を注ぎ込めば──僕の手でだって軽くひねれる。何しろ、今の僕は神獣の霊力を分けてもらってるからね、千里君と同じように。これも忠実に彼に仕え、任務を完璧にこなしてきた僕の演技の賜物さ♪ 一から十まで命令に服従するのはなかなかしんどかったよ。あの女に勘付かれて危うく告げ口されるところだった。今はもうその心配はないがね……」
「じゃあ、やっぱりリルケを殺したのも!」
「キマイラは遠視や空間歪曲の能力も持ってるから、彼が再生作業に専念するギリギリまで動くわけにいかなかったのさ。だから、悪いが彼女には消えてもらったよ。妖精長も恐くはない。後の障害は、君たちだけだ……」
ぞっとするような冷ややかな目で朋也たちを見据える。彼は淀みなく先を続けた。
「力を統べる紅玉のみから創世されたモノスフィアは、君も知ってのとおり、浅はかな君たちの種族のおかげであちこちガタが来て悲鳴を上げている。親元のメタスフィアまでとばっちりを受ける始末だ。だが、力の紅玉と叡智の碧玉、2つのアニムスがそろえば……新たに創世される世界は、秩序あるバランスのとれたものとなるだろう……。さすがに3つまではそろわないが、サファイアの消息が杳として知れないのは神獣の管理も要しない不要の長物の証でもあるから、別になくても構わないしね」
「それで、ベスみたいにネコの王国でも作ろうってのか?」
「アハハ! 僕はそんなつまらないことは考えないよ。世界を1つ手に入れてどうするか、だって? もちろん……ミオにプレゼントするのさ!!」
開いた口が塞がらなかった。だが、笑い事じゃない……。
「どうだい? 世界を丸ごと1つプレゼントするなんて、世の男どもの誰にも真似できないだろ? 僕はそのために全人生を賭した。実現ももはや目前だ」
彼の端正な顔が不意に苦悶するように歪む。
「クックク……正直に白状しよう、朋也。僕は劣勢に立たされてるんだ……。彼女は……僕よりも君に惹かれてる……。僕の方が君よりも彼女を知り尽くしているのに……彼女を理解しているのに……彼女を、愛しているのに!!」
自信に満ちあふれた冷ややかな表情が消え、まるで被っていた仮面が剥がれたかのように激しい憎悪の感情を剥き出しにして朋也をきっとにらみつける。
「朋也。君は……彼女を愛しているか? 彼女のすべてを……彼女の悪をも、愛せるか? 僕ならできる!! 彼女の心の闇をも、我が愛で包み込んでみせよう!! 君にそれができるのか!?」