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ミオ: +++

 朋也はカイトの狂える視線を正面から受け止めながら、静かに答えた。
「……たぶん、君の言うとおりだろう。俺は君より彼女を知らない。彼女を解ってもいない。でも……でも、俺だって彼女を愛してる!! 君に負けないくらい。ミオが望むなら、彼女の負の部分も受け入れるよ。誰にだって心の闇ぐらい持ってるんだしな……。でも、包み込むよりは光に当てて溶かしてみせるさ! 俺は不器用だから、どこまでできるかわからないけど……」
 カイトはさらに目を細めて朋也を見つめた。顔は平静を保っているが、肩を小刻みに震わせ、内に秘めた憎しみが頂点に達しつつあることを示している。ついに彼は凄みのある笑みを浮かべて言った。
「……じゃあ、今ここでそれを証明してみせたまえ!!」
 呪文の詠唱に入る。朋也たちは直ちに応戦態勢をとった。クルルが魔法反射のスキルを発動する。
「ジェネシスッ!!」
 来た! いきなり最強呪文かよ……。だが、跳ね返されて自滅するのはお前のほうだぞ? こっちにはダイヤもあるし──と思っていたら、島中を覆うほどの閃光と咆哮が4人を見舞った。
「うわあっ!!」
「きゃあああっ!!」
 反射スキルはまったく役に立たなかった。彼のに比べれば、千里のジェネシスも1ランク下のトリニティくらいに思えるだろう。クルルもジュディも息も絶え絶えだ。これが神獣から得た魔力なのか!? フィルがセラピーを発動して、朋也は何とか持ちこたえたが、すかさずカイトが懐に飛び込んでくる。
「ハハハハッ!! キマイラの霊力を手に入れた僕にかなうと思ってるのかい!?」
 ネコ族の奥義、九生衝だ。といっても20コンボは下らなかったが……。反撃どころか、1撃もガードできない。それも、フィルが物理防御の特殊スキルを発動してくれたにもかかわらずだ。種族スキルも防御力も朋也が重点的に鍛えてきたはずなのに、彼の前ではまるで歯が立たなかった。弄ばれるネズミのように、あっという間に全身をズタズタに切り裂かれていく。
「どうした、情けないな朋也? 彼女を愛してみせるんじゃなかったのか!?」
 膝を折って肩で息をする朋也を蔑むように見下ろしながら、カイトは決着が着いたことを宣言した。
「これで思い知ったろう? 君には彼女を愛する資格すらないってことを……。さあ、もうおしまいにしよう。この場で彼女の記憶から君の存在を消し去ってあげるよ!!」
 再び魔法の詠唱。どうやらもう1発ジェネシスをお見舞いするつもりらしい。くっ、このまま為す術もなくやられちまうのか……。だが、もう立ち上がる力さえ残っていない。気力を振り絞って、今にも自分にとどめを刺そうとしているライバルを見上げる。
 そのとき、朋也は驚きに目を見張った。そこに〝彼女〟がいたからだ。音もなくカイトの背後に忍び寄る。そして、彼女は手にしたサーベルで(あれはリルケの持っていたものだ)、彼の胸を一息に貫いた。


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