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 カイトの動作が止まる。赤い筋が口元を伝い、彼はがっくりとその場に膝をついた。
「……ミ……ミオ……」
「カイト……あんたを、愛してるわ。でもね──」
 ミオはゆっくりと恋人の胸からサーベルを引き抜きながら囁いた。
「彼は、必要ニャの……」
 カイトは彼女の腕の中にくずおれると、苦しそうに朋也を見て自嘲の笑みを浮かべながら言った。
「……フフ……朋也……やっぱり僕じゃ、君には勝てなかったみたいだ……」
「カイト……」
 朋也は這いずるようにしながら彼のそばに近寄った。
「でも……この程度で参ってるようじゃ、先が思いやられるな……。君に、彼女を引き継いでおこう……」
 彼が自分のスーツの胸にはまった大きなアメジストの鉱石に触れると、突然紫色の光が辺りにあふれ返った。光の中に裸身のネコ族の女性が浮かび上がる。ちょっとミオに雰囲気が似ていた。といっても、顔は前駆形態に近かったが。彼女は朋也の姿を目にとめると、隣に降りてきて腕を絡ませた。ミオが目の前にいるのに……。うっとりと目を細め、焦っている彼の頬に口づけする。が、何も感じない。そのまま彼女の姿は消えてしまった。ただ、全身が紫の光に包まれ、温かい光に満たされていくのがわかる。
「どうやらモーも君のこと、気に入ったみたいだな……彼女を口説いて、しばらく独占させてもらってたんだがね……」
 じゃあ、今のがネコ族の守護神獣、バステッド=モーなのか……。いくらカイトがハンサムガイのスーパーキャットだからって、一族の他のみんなをほったらかしてていいんだろうか?
「それから……こいつも君にあげるよ……今の君なら、使いこなせるだろう……」
 左手から彼愛用のシャドウネイルを外して渡す。黒光りするプラクティスの行き届いた爪はまさしく一級品だった。
「僕は自分の持てる全てを出しきった……そのうえ、愛する人の手にかかって死ねるなら、本望と言わなきゃね……。ただ残念なのは、僕が君じゃないってことかな……フ……フフ……」
 力なく微笑む。
「朋也……君はいずれ、ミオを択るか、世界を択るか、2つに1つの選択を迫られることになるだろう……果たしてその時、君はどちらを選ぶことになるのかな? フフ……僕は草葉の陰から成り行きを見守ることにするよ……せいぜい……彼女を、愛してやってくれ……」
 目を閉じたきり、カイトは動かなくなった。紫色の光が彼の身体を飲み込むように包み始める。光が収まってみると、ミオの膝の上には美しいグレーのキジネコの亡骸が横たわっていた。
 しばらくしてようやくミオは面を上げぬまま口を開いた。
「……前の晩に船の貨物室に潜り込んで、そのまま寝ちゃったのよ。心配かけちゃったわね……」
 ……。たぶん、嘘に違いない。味方をも欺いてあらかじめ別行動をとるつもりだったんだろうな。こうなることを予期して──


*選択肢    ありがとう    ごめん    なぜ殺した!?

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