朋也が神殿の玄関口まで急行していたとき、不意に大音響とともに3原色の閃光が辺り一帯に満ちあふれた。そして仲間たちの悲鳴も。あれはまさか……最強魔法ジェネシス!?
術者は千里じゃないな……彼女より上手だ。頼む、間に合ってくれ! 朋也は階段を一気に駆け登った。
巨大な伽藍の前の広場に出る。いた。ミオもクルルもマーヤも気絶している。赤いマントを羽織ったカイトが、〝鍵〟である千里を抱きかかえ、目を細めて彼女の顔を見つめていた。
「カイトッ!! 貴様!」
彼は目を吊り上げてこっちを見た。千里の身体を傍らに下ろす。
「おや? 誰かと思ったら朋也じゃないか。レディたちを残して1人で尻尾を巻いて逃げ出したのかと思ったよ」
「誰が逃げ出したりするもんか!! トラやベスを利用してユフラファのウサギ族を皆殺しにしたのも全部お前の仕業だったんだろ! そのうえ、神獣まで亡き者にしてアニムスを手に入れようとするようなやつに、千里を渡してたまるか!!」
「おやおや……彼女に聞いたのかい? しょうのない人だな、羽を傷めつけるだけで十分だろうと思ったのに。やっぱり息の根を止めておくべきだったかな?」
悪びれたふうもなく首を傾げる。
「ふざけるなっ!! リルケを裏切って殺そうとしたうえに、ミオにまでこんなひどい目に遭わせやがって! いくらお前でも絶対に許さないぞっ!!」
「許さないだって? そりゃよかった──」
そこで彼は、今まで見せたことのない殺気に満ちた目で朋也を見据えた。
「僕も君を殺したくってウズウズしてたところだったんでね!」
言うなり、カイトは爪を振り上げて猛然と襲いかかってきた。モルグル地峡で見せたようなスマートな戦いぶりは片鱗もなく、憎悪の感情を剥き出しにして猛り狂ったように爪を振り上げ向かってくる。
カイトのやつ、一体どうしちまったんだ? この凄まじいまでの憎しみは、全部俺に向けられたものなのか?
だが、いまは彼自身の怒りも頂点に達していた。あんなに美しかった彼女の羽をボロボロにしやがって……。
カイトの猛攻撃をかわして間合いを取ると、CNチューブの傘を構えてにらみすえる。いまやそれは傘ではなく、切っ先鋭いサーベルと化していた。アントリオンとの戦闘以来、彼の種族スキルは急激にカラス族のそれに傾斜していた。
反撃を開始する。今では身のこなしまで鳥族のそれに置き換わっていた。自分でも驚くほど身が軽い。以前はついていくのがやっとだった彼の動きを苦もなく見切ることができる。
形勢は次第に逆転し、朋也のほうが圧し始めた。相手はジェネシスやダイヤモンドを唱えることのできる強力な魔法の使い手でもあるだけに、ここで畳みかけて一気に勝負をつけるにしくはない。
「無影突ッ!!」
「ぐっ!!」
奥義の必殺技を受けて、カイトはよろめきながら膝を折った。
サーベルを突きつけようとして、朋也はふとミオに目をやる。こんなやつでもあいつの恋人なんだよな……。それに、向こうの世界でだってお互いに知り合ってた仲なんだし……。
その一瞬の隙を、カイトは見逃さなかった。素早く彼の手の甲を狙いサーベルを弾き飛ばす。
「しまったっ!」
「クク……なかなか痛めつけてくれたじゃないか。え?」
拾おうとした朋也の腹をすかさず蹴り上げる。装備を失い抵抗できない彼に、カイトは続けざまに爪を打ち振るった。
「よくも僕からミオを奪ったね……許さないよ……君なんかより僕のほうがよっぽど彼女のことを知り尽くしているのに……理解しているのに……愛しているのに!! それなのに、彼女は──」
猛攻から身をかばいつつ、混乱する頭で朋也は彼の口にしたことの意味を理解しようとした。何を言ってるんだこいつは? 俺がミオを奪ったって?
「九生衝!!」
ネコ族最大の奥義を繰り出す。
「僕がどうしてエデンに来たのか、わかるかい?」
5発……10発……
「君からミオを取り返すためさ!!」
15発……20発……まだ止まらない。朋也は為す術もなく全身を切り刻まれ、次第に意識が朦朧とし始めた。
「でも、これで思い知ったろう? 君如きじゃ彼女に相応しくないってことを……。さあ、もうおしまいにしよう! この場で彼女の記憶から君の存在を消し去ってあげるよ!!」
だめだ、立ち上がることもままならない……。くそ……せっかくレゴラスまでたどり着いたのに、ミオたちを護れず、ジュディも救えず、こいつに殺られちまうのか……。ごめん、リルケ……君の援けがあったからここまでやって来れたのに……。
ふと懐が急に熱くなるのを感じた。見ると、さっきリルケにもらってポケットにしまい込んでいた彼女の羽がまばゆい輝きを放ち始めた。いったい何が──!?