ミオと朋也の必死の制止にも耳を貸さず、カイトは呪文を詠唱し始めた。仕方ない……倒さなきゃ道を譲らないって言われたんじゃ、相手をするしかないもんな。
チラッとミオのほうを見やる。彼女も観念して彼と戦う覚悟を決めたようだ。あんにゃろ~、再会したら早速愛し合おうなんて抜かしてたくせに! でも、そっちのほうがまだマシだった……彼女に辛い思いをさせるよりは。だんだん腹が立ってきて、少しくらいギャフンと言わせてやってもいいやという気分になる。もちろん、言わせるだけにとどめるつもりだが……。
「ジェネシスッ!!」
げげっ、いきなりそれかよ!? 島中に轟かんばかりの咆哮をあげて3原色の閃光が5人に襲いかかる。
「うわあっ!!」
「きゃあああっ!!」
マーヤとクルルがとっさに魔法反射・半減スキルを発動したが、最強呪文だけに完全に効果を打ち消すことは不可能だった。ちくしょ~、せっかく苦労して集めたダイヤモンドが初っ端から切れちゃうじゃんかよ……。
やっぱりスーパーキャットだけのことはあるな。こりゃ、早いとこ勝負をつけないと半端なダメージじゃ済まないぞ……。朋也はやむなく自分の方から打って出た。爪を繰り出してジャブを仕掛ける。が、掠ってばかりで1発も当たらない。カイトは軽々と身をかわすと、背後を取って強烈な一撃を彼にお見舞いした。
「くっ!」
「どうした、朋也? そんなへっぴり腰で僕の相手が務まると思ってるのかい? 神獣の霊力を得た僕を倒したければ、全力でかかってきたまえ!!」
朋也はいったん下がって好敵手をにらみ据えた。マーヤがセラピーで体力を補給する。モルグル地峡でパーティーを組んだときの彼と違い、今日のカイトは手を抜いている様子が見られなかった。彼が本気を出してきたんじゃ、こっちも真剣に戦わないと、いつまで経ってもジュディを助けに行けなくなっちまうな……。
「朋也!」
ミオが側にやってきて素早く耳打ちする。頷くと2人は二手に分かれた。
「言ってわかんニャイニャら──」
「目に物言わせてやるぞ!」
残る3人のバックアップのもとに、2人で連携攻撃をたたみかける。もちろん、彼をギャフンと言わせるのが主目的だったが、朋也には実は別の算段があった。彼のネコスキルはある程度のレベルで止まっていたし、爪もメインの装備ではない。パートナーが別にいることに関係しているのかどうかはしらないけど……。今でもミオとは息のピッタリ合った連携技を繰り出すことができたが、それは2人が家族として長い仲だからだ。朋也が不十分なネコスキルしか持ち合わせていないのは、手を合わせてみれば解るはずだった。
そのうえ、思ったとおり彼はミオに対しては手加減し、専ら朋也だけを攻撃しにくる。敏捷さが自分と同格のミオより、朋也のほうが的にしやすいのも確かだが……。ミオが平気で自分を盾にするのを見れば、きっと2人が恋仲じゃないと納得してくれるに違いない。まあ、癪といえば癪だけど──
って、なんでミオのやつはわざわざ俺の前に出てきて攻撃を受けようとするんだ!?
「おい、バカ! 何で俺をかばおうとするんだよ!?」
再び後退してミオに注意する。
「ニャニよ? いつもあたいの前に出ようとすんのはあんたでしょ?」
「お前、それはいつものことで……。と、ともかく、あいつの前でそんなことしたら逆効果だろうが!」
「うっさいわね! あたいにはあたいの計算ってもんがあるのよ!」
いつのまにか口論になってしまう……。カイトは苦虫を噛み潰したような顔をしてこっちを見ている。
「タイムはもう済んだかい?」
「もうちょっと待ってニャ~♪」
「もうちょっと待ってくれ!」
しまった、同時に口を開いちゃった。なんて間が悪いやら……。
「……あてつけるのもいい加減にしたまえ!」
やっぱ怒った……。
「ジェネシスッ!!」
またかよ!? やっかみが倍増してるせいか、さっきより威力増してるし……。こんなとこで消耗戦を繰り広げてるわけにはいかないのに。
「朋也……」
千里が彼と同じ懸念を目で訴える。
「次で決めるわよ、みんニャ。いいわね!」
ミオも結論は同じだった。
全員で素早くアイコンタクトをかわすと5連携技を発動する。千里とマーヤのトリアーデ2重唱にクルルのフリーズ、そしてミオ&朋也のダブルアタックだ。1人1人の技を一点集中させて爆発的な威力を生み出す連携攻撃は、これまでのモンスターとの戦闘の中で培ってきたパーティーのお家芸だった。
「ぐっ……」
ついにカイトはがっくりと膝を折った。やった! 散々てこずらせてくれたけど。それにしても、全力の5人を相手にたった1人でこれだけ立ち回るなんて、やっぱこいつスーパーキャットだよな。
「さあ、これで勝負はついただろ? もうくだらないことでケンカするのはやめようぜ? 男前に関しちゃ、最初っから俺じゃお前に勝てないんだから……」
カイトは顔を上げなかった。ミオがハッとして駆け寄ると、彼はそのままぐったりと彼女にもたれかかった。みんな驚いて彼の周りに集まってくる。マーヤたちがヒーリングを一生懸命施すが、どうしたわけか彼の身体は回復魔法を一切受け付けなかった。まるで擦り抜けてしまうかのようだ。
「カイト!? 一体──!?」