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 その時、彼のスーツの胸にはまっていた大きなアメジストの鉱石が外れ、地面に転がった。後にはぽっかりと大きな空洞が開いていた。
「か、身体が……腐ってるよ!」
 クルルが悲鳴を上げる。
「な、何なの、これは!?」
 千里も思わず口元を押さえた。
 ぐったりしていたカイトが再びうっすらと目を開いた。
「神獣の霊力を得る代償はなかなか高いものにつくらしくてね。千里君の場合は、相手がフェニックスだから大丈夫だろうが……君がその力から自由になるためには、いずれにしてもキマイラのところへ行くしかない……」
 そんな! さっきからこんな身体で平気なふりをして戦っていたってのか!? どうしてそこまでして──
「朋也……やっぱり、僕の負けだったね……フフ……」
 彼の顔を見ながら力なく微笑む。
「力が衰えているとはいえ、キマイラは紅玉を復活させるために全力を傾けてくるだろう……心してかかりたまえ……。ここで僕を倒せないようでは到底勝ち目はないが、今の君ならチャンスはある……さあ、行きたまえ……彼はこの神殿の最上部にいる……」
「お前、まさかわざと……」
 彼は首を横に振った。
「ミオを手に入れられない人生なんて生きるに値しないからね……僕は自分の持てる全てを出しきった……悔いはないよ……」
「カイト……俺……」
 この期に及んで何と言っていいのかわからなかったが、自分とミオとの関係を解ってもらえないのはもどかしかった。
「君たち2人の間柄を見ていて……本当にうらやましいと思ったよ……。家族、か……僕も……一度はそんな関係を築いてみたかったな……」
 言葉がなかった。
 続いて、ミオの目を見て悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「でも、ミオ……隠してもわかってるよ……本当は、君は……」
 涙を溜めながらも少し困ったような顔をして見つめ返す彼女のために、彼はその先を言わなかった。
「わかってるよ……彼には内緒だ」
 再び朋也に視線を戻す。
「朋也……この先ひょっとしたら、予想もしない試練が君を待ち受けているかもしれない……だが、たとえ何が起きようとも……君がもしその子を愛してるんなら、その気持ちを失っちゃいけないよ……」
「カイト……」
 そして、最後にもう一度ミオの顔に目を向ける。だが、もう彼の視界には何も映っていないようだった。
「ミオ……君に素敵な贈り物を用意するつもりだったんだが……残念ながら力不足だったよ……。でも……朋也はきっと、君の望む世界を少しだけ変えてくれるだろう……。あるいは、君の好きな世界を護ってくれるだろう……プレゼントはできないまでもね……」
 その先はもう声にはならなかった。ただ、口の形だけで最後の台詞が"愛してる"だというのはわかった。
「カイト……あたいも……愛してるよ……」
 堰を切ったようにとめどなく涙が溢れ出る。彼女は彼の手をギュッと握り締めた。だが、その手はもう握り返そうとはせず、ただ彼女に支えられているにすぎなかった。
「カイト……の……バ……カァ……!!」
 トラのときと違って、取り乱して嗚咽する彼女の姿に、朋也は思った。ミオは……本当に彼のこと、好きだったんだな。胸がちょっぴりチクリとする。カイト……お前は俺のことうらやましがったけど、俺に言わせりゃお前のほうがよっぽど羨ましいよ。男って、どうしてこんなにバカな生きものなんだろう? なあ、カイト……そうは思わないか?
 やがて紫色の光が彼の身体を飲み込むように包み始める。光が収まってみると、ミオの膝の上には美しいグレーのキジネコの亡骸が横たわっていた。見たこともないほど安らかな死に顔だった──


※ 次のシナリオはミオの好感度が最下位かそれ以外かで分岐。
最下位    それ以外

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