「なんてこった……」
朋也は唇を噛んで呻いた。後一歩でキマイラの所へ到達できるというのに……。ここで千里の迎えが来るのをおとなしく待つ以外ないというのだろうか?
「待ってぇ、大丈夫かもぉ♪ あそこのブロックの端にあるのがきっと橋を下ろす装置だわぁ。あたしがやってみるよぉ」
マーヤが申し出る。確かに、折りたたまれた橋の接合部らしき4角形が側面に見えた。
「わかった。モンスターに襲われかかったらすぐに合図して戻ってきてくれよ?」
彼女を1人で送り出すのは気が進まなかったが、他に手がないので任せることにする。マーヤは50メートルほど離れた向島に飛んでいった。たどり着くと、彼女は早速操作に取りかかったが、少々てこずってるようで、すぐには動きがない。どうやら、照合装置がついていてオペレータの権限をチェックされているようだ。
朋也は何気なく、奮闘しているマーヤ(ここからだとほとんど羽しか見えない……)から、ブロックの下のほうに目を移して驚天した。尻尾の先まで30メートルは下らない巨大なモンスター(見てくれは深海魚のフクロウナギか何かに近い……)が、彼女のいるブロックの真下から接近していたからだ。
「きゃああっ! 何あれ、口と胃袋ばっかりで出来てるよ~!?」
クルルが震え上がって叫ぶ。朋也は声を張り上げて何も知らずに認証システムに取り組んでいるマーヤに怒鳴った。
「おい、マーヤ! そいつはいいから、急いで切り上げて戻って来いっ!!」
「マーヤ、下! 下! 下を見て! 下だってば~っ!!」
クルルがピョンピョン跳びはねながら叫ぶ。上に乗ってちゃわからんだろ……。ミオがブロックの縁から身を乗り出し、自分たちのほうを狙ってくるやつがいないか確かめようとする……。
「え~、なぁにぃ? もうぉ、集中できないじゃないよぉ~!」
身振り手振りを交えた必死の警告も虚しく、マーヤは取り合ってくれない。巨大フクロウナギは、差し渡しが20メートルはありそうな口をあんぐりと開けた。まさか、ブロック毎飲み込むつもりなのか!?
魔法の射程外だったため、千里が絆の銃を向けてぶっ放すがびくともしない。みんなの見ている前で、そいつはマーヤを乗せたブロックをそっくりそのまま飲み込んでしまった……。
「いやあっ!!」
「マーヤッ!!」
「あちゃ~、妖精の踊り食いだニャ~……」
ミオ、お前な……。
4人が呆然と立ち尽くしていると、突然そいつの横腹を突き破って連絡橋の先端が飛び出してきた。そいつは身悶えしたかと思うと、白い霧になって蒸発する。どうも図体ばかりでオツムのほうは空っぽのモンスターだったらしい……。ホッ。橋を渡って向こう岸で待っていたマーヤと合流する。
「なんかいきなり真っ暗になったけどぉ、何だったのかしらねぇ~??」
最後まで何が起こったのかわからなかったようだ。まあ、知らぬが仏か……。
一行がさらに先に進もうとしたときだった。
「ご主人サマッ!!」
次のブロックの上で枷をはめられてもがいていたのはジュディだった。
「ジュディッ!!」
千里が脇目も振らずに飛び出していく。
「ここへ来ちゃ駄目だ!! ボクなら平気だから──」
……何かがおかしいぞ? 心の中で警報が鳴る。ミオが彼女を呼び止めようと叫んだ。
「千里、待ちニャ!!」
朋也は無我夢中で走っていく千里の後を追いかけようとした。まったくあいつは、ジュディのことになると他のものが目に入らなくなるんだから……。だが、100メートル走のタイムも彼女とどっこいどっこいの朋也にはなかなか追い着けない。
「おい、待てったら!! 千里──!?」
後少しでジュディの囚われているブロックに辿り着つくというところで、不意に彼女の持つ絆の銃が黄色い光を放ち始めた。びっくりして立ち止まった千里の前で、ジュディの姿が不意に歪み、ふっつりと消える。映像!?