戻る






 扉の向こうはホールになっていた。神殿の外観に比べるとやや狭い感じだ。妖精の衛兵でも待ち受けているんじゃないかと思ったが、人の気配はなくひっそりとしている。
 ガランとしたホールの中央には3つの台座があり、上には彫像が立っていた。1つはライオンとヤギとヘビ(というより映画で見たベロキラプトルに見える……)の頭を持った動物─これがエメラルドの神獣キマイラか……。神話に登場するキマイラと微妙に食い違うのは、記憶の風化のせいだろう。そうすると、こっちの翼を広げた鳥はフェニックスだな。もう1つの台座には何も乗っていない。サファイアの神獣が乗ってるはずなんだろうけど……。神殿の彫像まで正体不明のままなのか? 案外透明だったりして……。
   神獣の前には、それぞれ無色の透き通った大きな宝石が輝いている。ホールにあったのはそれら3つのオブジェだけだった。カイトは神殿の最上階にキマイラがいると言っていたが、階段らしいものがどこにもない……。
「う~む……ここからどうやったらキマイラのところへ行けるんだろうな? こんなときにマーヤがいてくれたらなあ……」
 声にしてからしまったと口をつぐむ。チラッと千里を見ると、彼女は目を逸らしてうつむいた。別に彼女を責めるつもりじゃなかったんだけど……。
「過ぎたこと言っても始まらニャイわ。ともかくどっかに仕掛けが隠されてるはずニャンだから、手分けして探しましょ」
 ミオが助け舟を出す。それから、みんなして何か手がかりになるものがないかと、壁や床をたたいたり、目を皿のようにしてどっかにスイッチでもないかと探しまわる。だが、それらしいものはどこにも見当たらなかった。オブジェに触ったり手をかざしてみたが反応はない。「開けゴマ!」と叫んでみる。クルルに言葉の意味について質問責めに遭い、説明に四苦八苦しただけだった……。千里には白い目で見られるし。
 みんなうんざりしてサジを投げかけたとき、フィルがいつものとおり遠慮がちに提案した。
「朋也さん、1つ思いついたことがあるのですが……」
「え?」
「ここにあるオブジェは、皆さんもご推察のとおり3つのアニムスを模したものと思われますが、一点異なる点があります。この宝玉には色がありません。それで、試しに魔法を照射してみてはどうかと思ったのですが……」
「そうそう! あたいもいまそれを言おうとしたとこニャのよ♪」
 ……。ともかく試してみる価値はありそうだと、千里、フィル、クルルの3人がそれぞれ守護神獣の手前に置かれた丸いオブジェに向かってルビー、エメラルド、サファイアの3元魔法を唱えた。するとどうだろう──放った魔法が3つの宝玉の中に捕らえられたかと思うと、3色の光がホール中を満たした。
 光が消えてみると、そこに銀色に輝く球に近い箱状の物体が出現していた。中に大人数名が入れるくらいのスペースがある。オルドロイ神殿で地底のマグマだまりに降りるときに使った昇降機に少し似ていた。きっとこれに乗れば上に連れて行ってもらえるんだろう。
「やった! さすがフィルだな。レゴラスの妖精でもないのに」
「いえ、そんな……」
「あたいは?」
「……ミオも惜しかったな」
「それにしても、神獣がこのような絡繰を設定した意図が読めないのが少し気になりますね……。セキュリティが目的であれば、この程度の仕掛けでは意味がありませんし……」
 フィルが腑に落ちない顔でつぶやく。言われてみればそうだな……。だが、考えたところで朋也には答えが出そうにない。
 ここでグズグズしてるわけにもいかないと、一行は早速神殿の隠しエレベーターに乗り込んだ。入口付近のボタンを押すとドアが閉まって上昇を始める。いきなり超高層ビルの屋上を目指すくらいの急スピードだ。ホールの屋根はそんなに高くなかったのに、これじゃ天井にぶつかっちまうぞ!?
 思わず首をすくめようとしたが、いつまでたっても衝撃らしいものは何も起きなかった。どうなってるんだ? 神殿の外観はカモフラージュにすぎなかったんだろうか?
 エレベーターは不意に減速して止まった。チャイムとともにドアがすっと左右に開く。
 外に踏み出した5人の前に、驚愕すべき光景が広がっていた。


次ページへ
ページのトップへ戻る