朋也自身も呆然となってジュディの首輪を見つめた。努めて冷静になろうとするが、頭の中で考えをまとめることができない。これは……やっぱりミオの仕業なのか? 合理的に判断すれば、他には考えられない。
ミオがこの間もいろいろ勝手に動いていたことはわかっていた。千里を救出するためだけに朋也たちについてきたわけではないことも。だけど、まさかジュディの命まで奪うなんて……。
あいつとジュディはイヌとネコの間柄とは思えないほどうまくいってると思ってたのに。なんでこんなことになる前に気づかなかったんだろう!? もしかして、自分に対して親しく振る舞っていたのさえ、アニムスに近づく目的で演技をしていたのかもしれない。悔しさに唇を噛む。
「もし……もし、本当にあいつがジュディをひどい目に遭わせたのなら……俺だって許せない!」
拳を握って肩を震わせる朋也を慰めるように、千里はそっと肩に手を置いた。
「ごめん、朋也……。まだあの子たちの間に何があったのかわからないんだし……。ともかく、彼女に会って確かめに行きましょう」
「そうだよ、ミオがジュディにそんなひどいことするわけないよ! だって、2人は友達なんだもの」
クルルも2人を励ますように言う。
朋也はただ黙ってうなずいた。千里が自分に気を遣ってくれるのは嬉しいが、その彼女の気持ちを思うと、「許さない」という言葉を撤回はできなかった。一行はそれから互いに言葉を交わすこともなく先へ進んだ。
道々驚いたことに、遠くに輝く銀河や星雲と思われたものは、実はホントに手の届くところを漂っているミニチュアだった。目の前をついと横切ったりもする。見た目は天文写真で見るような銀河そのものだし、模型だとしても何でできてるのかさっぱりわからない。うっかり触ったら、いきなりバシッと音がしてルビーの炎が燃え上がった。
「な、何なんだ、これ!?」
火傷しそうになった手を引っ込めて目をパチクリさせる。
「たぶん、アニムスのかけらだと思うわぁ~」
そう答えたのはマーヤだ。
「かけら??」
彼女の説明では、世界の法則を司るアニムスは始原の宇宙の歪みから生じたエネルギーが形をとったもので、最初はこんなふうにバラバラだったらしい。それが最終的に紅、碧、蒼の3つの性質を持つアニムスの形にまとまったのだとか。再生の儀式を執り行ったこのアニムスの塔の中は、どうやらその原初の状態を一時的に再現しようとしているらしい。
何やらよくわからないが、ともかく朋也はそれ以降ミニチュア銀河には近づかないことにした。
「あらぁ~、あたしが触ったら鉱石がいっぱい出てきちゃったぁ~♥ これだけあれば一生蜂蜜に困らないわねぇ~♪」
「クルルのほうはHPが回復したよ♪」
……。どうやら朋也は単に運が悪かっただけらしい。
5人は塔の最上階まで後1歩のところまで来た。最後の1段を上がってそこに到着する。半透明の物質で出来た奇妙な形状の祭壇のようなものの上に、輝くばかりの大きな紅と碧の宝玉が浮かんでいる。あれが……本物のアニムス! エメラルドに比べてまだルビーのほうが若干輝きが鈍いのは、まだ完全には再生していないせいだろう。その間に、両腕を大きく頭上に広げ、尻尾を高々と掲げているミオがいた。彼女の声が聞こえてくる。
「ウフフ……アハハハッ! ついに手に入れた!! ルビーとエメラルド、2つのアニムス! これで世界はあたいのもの……あたいが女王!! トラも……ベスも……カイトも……神獣でさえ、あたいの手駒だった──!」