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 泣きじゃくりながら、彼女のほっそりした身体を抱きしめる。と……ミオは薄めを開けて悪戯っぽくこちらを見た。あれ?
「ニャ~ンてね♪ びっくりした?」
 朋也は涙も拭かずに目を瞬かせながら彼女の顔を見ると、不意に怒鳴りだした。
「バッ、バカヤローッ!! 本気で心配したんだからな!?」
「……あたいが死んだらそんニャに悲しい?」
 口をすぼめて尋ねる。
「そりゃ悲しいさ。もう生きていけないくらい悲しいよ……」
 これ以上はないというくらいうなだれて肯定の意を示す。
「……なあ、ミオ。俺、何度だまされたっていいから、死んだふりだけはやめてくれよ? こっちの寿命が縮まっちまう……」
「そう……じゃ、やめたげるわ」
 ミオはちょっとつまらなそうにしながらもうなずくと、再び彼にもたれかかって目を閉じた。
「でも、さすがにもうヘロヘロニャの。このままちょっと休ませてよ……」
 朋也はあわてて身を起こすと、彼女を両の足で立たせようとした。
「駄目っ! こっちは寝てんだかどうなんだか区別がつかないだろ!? ちゃんと回復したのがわかるまでは寝るのも禁止!」
「え~!? しょうがニャイニャ~……」
 ミオはうんざりしたように顔をしかめた。
「じゃ、元気の素をチョーダイ♥」
 そう言うと、首に腕を回して唇をふさいでくる。
「わっ! バ、バカ! 回復ならちゃんとフィルかマーヤにしてもらえよ! まったく人前で──」
「ニャニよぉ、昔は毎日のようにしてくれたじゃニャァイ? 別に恥ずかしがることニャイでしょぉ?」
 腰に手を当てて口を尖らせる。
「へぇ~、毎日してたんだぁ……」
 千里が片目を吊り上げ、ニヤニヤしながら朋也を見る。
「してたんだぁ……」
 隣で同じくジュディも。
「う~んと、1日最低5回はしてたニャ~♪ 『おはよう』と、『おやすみ』と、『いってらっしゃい』と、『お帰りニャさい』とぉ……」
 顎に人差し指を当てて数え出す……。
「ふぅ~ん……1日5回もねぇ……」
「5回もねぇ……」
 からかう2人に、朋也は真っ赤になって弁解した。
「え、いや、その……べ、別にいいだろっ!? ただの挨拶なんだから!」
「ウフフ♪ ま、私もジュディとしょっちゅうキスはしてたけどね」
「エヘヘ♪」
「朋也、こっちに来てからちっともしてくれニャイんだもの……。だから、もう1回ちゃんとして!」
 両手を伸ばして催促する。
「お前、人の話全然聞いてないだろ!?」
「聞いてるわよ。あたいは見せつけたいの!」
 千里は苦笑しながら両手を挙げて降参のポーズをとった。
「はいはい、わかったわよ。ミオちゃん、私は朋也に手を出したりなんてしないから安心して? その代わり……もう世界を引っ繰り返すような真似は2度としないでね?」
「本当だよ! いい迷惑なんだから、まったく!」
「言えてるぅー♪」
「クフフ」
「フフフ」
 ミオ1人が顔をしかめている中、みんなが笑い出す。朋也も自然と笑いがこみ上げてきた。
「アハハハッ!」
 こうして2つの世界を巻き込んだ大事件は、メデタシメデタシの大団円のうちに幕を閉じた──かに見えたが、まだ終わりではなかった。なぜなら、この後悲しい別れが待っていたからだ……。


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