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 アニムスをめぐる騒動が一件落着し、俺たちはキマイラが開いてくれたゲートからモノスフィアへ帰ることになった。正直言ってかなり悩んだ。この世界が心底気に入ってしまったから……。でも、エデンは救われたけど、向こうの世界は何も変わっちゃいない。動物たちが少しでも暮らしやすい世の中に──エデンのように──変えていくことが、トラやベスの遺志にもかなうんじゃないか……そう思ったから、生まれ育った世界へ帰ることに決めたのだ。もっとも、剣も魔法もない世界で、自分たちにできることなんてほんの僅かだろうけど……。
 ジュディも千里と一緒に帰ることになった。彼女自身の意思で。だけど、向こうへ帰ったら、彼女は元のイヌの姿に戻ってしまうし、言葉もしゃべれなくなる……。千里は自分がエデンに残ることも真剣に考えてたけど、自分が千里についていくとジュディが言い張ったため、結局折れた。まあ、どっちの世界だろうと、強い絆で結ばれた2人を引き離すことなんて、2度と誰にもできやしないだろうけどな。それに、2人の間には言葉なんて必要ないんだし……。
 ミオは……やっぱり彼女自身の意思で、エデンに残ることに決めた。俺も賛成だった。彼女がせっかく手に入れた可能性を、俺の都合で奪うわけにはいかなかった。といっても、自分の世界を創るなんて大それたことは2度と考えないだろうけど……。それに……1度彼女を1人の女性として見てしまうと、元の姿に戻ったミオに接するのは、やっぱり辛い……。
 お互いの気持ちが通じたのは、本当に短い時間だったかもしれない。それでも、俺はやっぱり彼女を愛してる。果たして向こうの世界に帰って、彼女なしでやっていけるだろうか? エデンとともに、思い出の中に封じ込めることができるだろうか? 今からすでに自信がない。彼女がごねずにここ数日おとなしくしてくれてるのは救いだった。いや……本当は彼女が駄々をこねてくれるのを、俺は望んでいたのかもしれないけど……。

 ──その日、マーヤや、クルルや、フィルや、ゲドたち3人組や、エデンで暮らすみんなに別れを告げ、見送りのミオと一緒に、初めてこの世界へ足を踏み入れることになったあのクレメインの森のゲートの前に、朋也たち3人はやってきた。このゲートをくぐれば、もう2度とミオとは会えなくなる──
 2人はゲートの前で互いの目をじっと見つめ合っていた。千里とジュディはすでにゲートの転移装置の上にいる。キマイラの指定した転送時間まで後数分しか残っていないはずだった。でも、時計を見るのが恐くて目をやれない。何か言わなくちゃ……最後に……。
「それじゃ、ミオ……元気でやれよ……」
 そう言うのが精一杯だった。彼女は何も返事をしなかった。うなずくことさえしなかった。ただ、澄んだグリーンの瞳で彼を見返すばかりだった。朋也は視線を無理やり引き剥がすように目を背けると、、転送装置に向かう階段をゆっくり昇っていった。そのとき──
「朋也っ!!」
 ミオは一声叫ぶと、走ってきて彼の背中にしがみついた。
「……あたい、何でも言うこと聞くよ……奴隷にでも、ペットにでもニャるよ……だから……行かニャイでっ!!」


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