「ミオ……本当にお前って奴はわがままなんだから……世界が一大事だってのに……」
朋也は段を登りかけた足を下ろし、ゆっくりと彼女に向き直った。
「でも、俺は……そんなお前の言うこと、やっぱり聞かずにはいられないんだよな……」
ミオは涙に濡れた目で彼の顔を見上げた。
「ごめん、千里。俺……俺、やっぱり残るわ!」
彼女たちに背を向けたまま謝る。ミオの顔にパッと笑みが広がった。
「あたいと一緒にいてくれるの!? ホントに!?」
「ああ……もうお前のそばからどこへも行かないよ」
「嬉しい! もう離さニャイから……」
しっかりと抱き合う2人を見て、千里は長いため息を吐くとうなずいた。
「……わかったわ。私もその方がいいと思う……。2人はやっぱり離れちゃ駄目よ。私とジュディと一緒よね」
「すまない。なんか、責任を押し付けるみたいで……」
頭を下げる朋也に、千里は頬に指を押し当てながらすました顔で言った。
「どのみちできることは限られてるんだし、気楽に構えるわ。ううん、そうねぇ……エデンや神獣やアニムスの存在なんて、言っても誰も信じてくれないだろうし……ここでの体験を小説にでも書いて、女流作家を目指そうかな♪」
「あ、それいいかも! ご主人サマ、頭いいもんね!」
「朋也じゃ無理だろうけどニャ♪」
「いちいち俺を引き合いに出すなよ」
「ウフフ」
ゲートを取り巻く位置に配置された転送機が起動し、3原色の光がうっすらと2人を包み始めた。
「そろそろゲートが開通する時刻だな……。2人とも達者でな! 無理はするなよ!」
「ええ、そっちもね! ミオちゃん、朋也をあんまりいじめちゃ駄目よ?」
「家出されニャイ程度にしとくわ♪ 千里、あんたも早いとこイイ男見つけニャさいよ?」
「フフ、あなたに負けない素敵なBFを捜すことにするわ♪ でも……ジュディがいれば、別に彼氏なんて要らないかな?」
「ボクも!」
「あんたはそのがさつな性格を治さニャイと、オスには誰も振り向いてもらえニャイわよ?」
「余計なお世話だっ!」
「ううん……ジュディは十分魅力的だと思うけど、確かにミオちゃんの言うとおり、もうちょっとお淑やかにした方がいいかもねぇ……」
首をひねる千里に、ジュディはげんなりした顔で訴えた。
「え~っ、ご主人サマまでそんなこと言うのぉ?」
「アハハハ!」
不意に、ジュディの身体が黄色く輝きだす。数秒後、そこにいたのは元の姿の彼女だった。神獣の加護の効力が切れたのだ。
朋也は胸がいっぱいになった。小さいときからずっと近くにいて、時にはケンカもしたけれど、千里はやっぱり自分にとって一番の親友だ。ジュディも。その彼女たちと、これでもう2度と会えなくなる。小学生時代から続く思い出に加え、エデンで4人(2人&2匹)が過ごした、短くも鮮やかに記憶に刻み込まれた冒険の日々が、走馬灯のように思い起こされる。
「それじゃ、2人とも仲良くね! さよなら!!」
「ワンッ!!」
3つの光がついに2人を完全に呑み込んだ。光がやがて薄れ始め、後には空っぽのゲートが残された。胸にぽっかりと大きな穴が開いたみたいだ。朋也はミオの肩をそっと抱き寄せた。
「……行っちゃったな……」
彼女はケロリとして言ってのけた。
「これで邪魔者は片付いた、と♪」
「コラ」
額に軽くゲンコツをお見舞いする。
「ニャハ♥」
ミオは首をすくめると、ペロッと舌を出して片目をつぶってみせた。