すると、彼女はもう1度うっすらと目を開いた。
「朋也……どこにいるの? 見えニャイよ……」
彼女の濁った目はもはや何も映していないようだった。
「……寒いよ……朋也……あたいをしっかり抱いていてよ……あたいを捨てニャイで……」
声は次第にか細く、小さくなっていく。
「……朋……也…………と……も…………」
ほっそりとした手から力が抜けぶらんと垂れ下がった。ミサンガの代わりに付けていた首輪が床に落ちて、乾いた音を立てる。
「ミオ!? おい、ミオッ!? ミ──」
目の前がぼやけて何も見えなかった。俺が悪かったよ……お前のこと疑ったりして……ひどいこと言って……全部、取り消すから……お前のこと、愛してるってば……だから……頼む、目を開けてくれ!!
彼女の身体が仄かな紫の光に包まれ始めた。まぶしい光の中で、彼女の身体が小さく、軽くなっていく。やがて光は収まり、膝の上には赤茶のネコが目を固く閉じてぐったりと横たわっていた。
「ミオォォーーーッ!!!」
朋也は冷たく強張り始めた毛皮をギュッと抱きしめた。慟哭の声は、彼女の耳に届けられぬまま、塔の中でこだました。
こうして、2つの世界を破滅に導きかけた事件は幕を閉じたのだった──