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「ご主人サ──いでっ!」
 千里に声をかけようとしたジュディのフサフサした垂れ耳を、ミオが引っ張る。
「ほらほら、外野は邪魔しニャイでとっとと退散するの! じゃあ、朋也。先に行ってるわよ!」
 片手を振ると階段を下りていく。
「チェッ……。朋也、ご主人サマのこと、頼んだよ!」
 ジュディもすごすごとミオの後に従った。途中で一旦立ち止まって振り返る。
「ご主人サマに変なことすんなよ!」
 変なことってな……。どこまでのことを指してんだか……。
「ウフフ、大丈夫よ。ありがとう、ジュディ。心配してくれて……」
 彼女をなだめるように笑顔を向ける。
 マーヤ、クルル、フィルの3人も、朋也たちに手を振ると2人の後に続いていった。
 これでやっと2人きりか……。
 朋也は彼女の顔をのぞき込むように声をかけた。
「ごめんな、千里……どこか痛まないか?」
「ううん、全然大丈……あ……」
 答えようとしたそばから、足元をふらつかせてよろめく。
「お、おい!? しっかりしろよ! やっぱりフィルかマーヤにちゃんと回復しといてもらうべきだったなあ」
 何となく不敬な気はしたが、彼女と一緒にアニムスの台座に腰を下ろし、落ち着くまで休ませることにする。
「どっちかっていうとね、アニムスに魔力を全部受け渡しちゃったのが堪えたかな。何かもう空っぽになった感じ……。あ~あ、これで私も、魔法なんて使えない、普通の女の子に戻っちゃった……」
 がっかりしたようにため息を吐く。
「ハハ」
 こっちとしては、うかつに前でものを言えない〝恐ろしい魔女〟を廃業してもらえたほうがホッとするけど……。
 突然パッとまばゆい輝きが辺りを照らし出した。天を振り仰ぐと、いままさに皆既日蝕が終わったところだった。月のクレーターの間から顔をのぞかせた太陽の光がほんの一瞬見せるダイヤモンドリングの輝きに、2人して見惚れる。月の裏側を通り抜けた太陽が、次第に辺りの闇を追い払っていく。
 千里が頭を持たせかけてきて目を閉じながら言う。
「……しばらく、こうしててもいい?」
「え、ああ……。でも、ジュディにこんなとこ見つかったら怒鳴られちまうかも」
「ウフフ。あの子だって、このぐらい大目に見てくれるわよ」
 朋也は遠慮がちに彼女の肩に手を回した。ちょっと大胆かな? でも、ここまでだったら、何とかギリギリセーフだよな……。
 しばらくそうやって言葉もなくお互いの存在を感じ合っていたが、おもむろに朋也がつぶやいた。
「イヴ……可哀相な人だったね……」
「そうだね……。私が同じ立場だったら、やっぱり彼女みたいになっちゃってたかもしれない……。でも、よかった。いくら見かけが似ていても、朋也がアダムみたいな男じゃなくて……」
「う~ん、そうだなあ。俺の場合、野望なんていってもせいぜい、イヌやネコがみんな幸せになれたらいいなってぐらいだし。エデンではもうそれが実現しちゃってるもんなあ……」
「ウフフ♪」
 クスッと笑ってから、目を細めて朋也を見つめる。
「……私の好きな人が朋也で、本当によかった♥」
「えっと、あの……」
 朋也は顔から火が出るほど恥ずかしくなり、あわてて彼女から目を逸らした。いくら周りに誰もいないからってなあ……。
「そ、それにしても、千里は今回大活躍だったよな! ジュディを助けるために特訓して、すごい魔法まで使いこなして、エデンと俺たちの世界が救われたのも、実質千里のおかげだし……。俺なんて、ちっとも役に立たなくて出る幕なかったよ。アハハ♪」
 頭を掻きながら誤魔化すように言う。
「何言ってるの! 最後に私のこと助けてくれたのは朋也じゃない。かっこよかったよ……私の王子様♥」
 目を伏せて体重を預けてくる。お、おい、さすがにもうこれ以上わ……。
「お、王子って柄じゃないと思うけど……」
 朋也に指摘されると、千里も小首をかしげながらうなった。
「そうねぇ……まあ私も、さらわれたお姫様を救う白馬にまたがった王子様っていう在り来たりのシチュエーションは、あんまし好きじゃないのよね。もし、今度の冒険を物語にするとしたら……登場人物のキャプションは……う~ん……」
 ……。セーラー服と学生服とか言うなよな?
「!」
 閃いたようだ。
「やっぱり、ネコ好きの男の子とイヌ好きの女の子、かな(^^ゞ」
 ……異議ナシ♪


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