千里が朋也の手を握ってくる。
「ご主人サ──いでっ!」
千里に声をかけようとしたジュディのフサフサした垂れ耳を、ミオが引っ張る。
「ほらほら、外野は邪魔しニャイでとっとと退散するの! じゃあ、朋也。先に行ってるわよ!」
片手を振ると階段を下りていく。
「チェッ……。朋也、ご主人サマのこと、頼んだよ!」
ジュディもすごすごとミオの後に従った。途中で一旦立ち止まって振り返る。
「ご主人サマに変なことすんなよ!」
変なことってな……。どこまでのことを指してんだか……。
「ウフフ……ワンちゃん、大人のお楽しみを邪魔しちゃだめよ♥」
ジュディはあんぐりと口を開けて主人の顔をマジマジと見た。これ以上はないというほど情けない表情だ。がっくりと肩を落とす。引き返してきたミオに慰められるようにして塔の外に出て行く……。
「お、おい……あんまりあの子をいじめんなよ」
「フフ、ちょっと演技してみただけじゃない♪ 心配性ね、朋也も」
どことなく性格が変わった気がするが……まあ、いろいろあったからな。
マーヤ、クルル、フィルの3人も、朋也たちに手を振ると2人の後に続いていった。
これでやっと2人きりか……。
朋也は彼女の顔をのぞき込むように声をかけた。
「ごめんな、千里……どこか痛まないか?」
「ううん、たいしたことないわよ」
答えてから、少し思案顔になる。
「あ……」
不意に千里は足元をふらつかせ、自分のほうに向かって倒れてきた。ほら、やっぱり……。
「お、おい!? しっかりしろよ! やっぱりフィルかマーヤにちゃんと回復しといてもらうべきだったなあ」
何となく不敬な気はしたが、彼女と一緒にアニムスの台座に腰を下ろし、落ち着くまで休ませることにする。
突然パッとまばゆい輝きが辺りを照らし出した。天を振り仰ぐと、いままさに皆既日蝕が終わったところだった。月のクレーターの間から顔をのぞかせた太陽の光がほんの一瞬見せるダイヤモンドリングの輝きに、2人して見惚れる。月の裏側を通り抜けた太陽が、次第に辺りの闇を追い払っていく。
千里が頭を持たせかけてきて目を閉じながら言う。
「……しばらく、こうしててもいい?」
「え、ああ……。でも、ジュディにこんなとこ見つかったら怒鳴られちまうかも」
「ウフフ。あの子だって、私たちの関係に口出しはできないわよ」
……。朋也は遠慮がちに彼女の肩に手を回した。ちょっと大胆な気もしたが、今の彼女なら全然抵抗ない気がして冒険してみることに。
しばらくそうやって言葉もなくお互いの存在を感じ合っていたが、おもむろに朋也がつぶやいた。
「イヴ……可哀相な人だったね……」
「本当にそう思ってくれるの?」
「え?」
朋也が訊き返すと、千里は何でもないと首を横に振り、目を細めて朋也の顔を見つめた。
「朋也……あなたって、やっぱり優しい人なのね……」
そう言って胸にしがみついてくる。まあ、エデンもモノスフィアも救ったことだし、役得ってことでいいよな?