戻る



ジュディ: +++++

「……それでも、いい」
 ミオに背を向けたまま、朋也は答えた。
「俺……ジュディのこと、わかってるつもりだから……。こいつがどれほど深く千里を愛していたか……千里を喪うことがこいつにとってどんなに苦しくて切ないことか、わかるつもりだから……。こいつの心の痛みが少しでも和らぐのなら──」
 その後の言葉は口に出さなかったが、彼は殺されてもかまわないつもりだった。
 ジュディに正面を向け、両腕を広げる。
「さあ、ジュディ……お前の好きなようにするといい……」
 彼女は剣の切っ先を朋也に向けると、大きく息を吸い込んだ。
「ご主人サマを返せぇーーっ!! 牙狼ッ!!!」
 イヌ族の奥義で来たか……。ミオ、みんな、すまん! 朋也はギュッと目をつぶった。
「きゃあああっ!!」
「朋也っ!!」
 ミオたちはとても目を開けていられないと顔を覆った。
 衝撃が身体の真ん中を走り抜けた。バキッ! 制服に同化したマスチフメイルにびっしりと亀裂が走り、砕け散る。
 演習で軽く手合わせしたときに試しに受けた記憶はあるが、本物の牙狼の威力がここまですさまじいとは……。まるでビルを破壊する鉄球を撃ち込まれたかのようだ。身体が異様に重く感じる。息ができない。胸を伝って温かいものが流れ落ちているのがわかる。朋也はがっくりと膝をついた。
 彼の胸からどくどくと流れ出る血を呆然と見つめているうちに、怒りのあまり歪んだジュディの顔から次第に狂気の色が失せていった。剣がその手から離れて落ちる。うなだれて苦しそうにうめく朋也の前で、彼女は自分も膝をついて心配そうに見上げた。
「……朋……也……ごめん……血が……痛く、ない……?」
 よかった、いつものジュディだ。戻ってきてくれたんだ……。
「痛くなんか、ない、さ……。お前の心の痛みに比べたら……これっぽっち、どうってことないよ……」
 手で胸を押さえながらも、彼女を心配させまいと微笑んでみせる。
「朋也ぁ……う……うう……」
 目に涙をあふれさせ、朋也の胸に顔をうずめる。おいおい、血がつくじゃんかよ。
 そのとき、彼女の全身がほのかな光を帯び始めた。緑と赤の螺旋模様が彼女の周りをグルグルと回転しながら、次第に光を強めていく。そして、アニムスがまたもや点滅をしだした。
 なんだと!? せっかく元に戻ったのに、ここでまたワーウルフに変身されでもしたらひとたまりもない。おかしいな、まだ彼女の体力が尽きたわけでもないのに。一体アニムスは、どうしてこんな自分たちをあざ笑うような真似をわざわざしようとするんだ!?
 ところが……先ほどとはエネルギーの流れの向きが逆だった。光はジュディの身体から迸り出て、2つのアニムスに向かって流れ込んでいく。アニムスは、ジュディの身体から流れてきた光を中継でもするかのように、さらにそこから千里の身体に向かってエネルギーを注ぎ込んだ。
 みなが息を詰めて見守る中で、信じられない出来事が起こった──


次ページへ
ページのトップへ戻る