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 そして……とうとう別れの朝が来た──
 朋也たちはいま、あの日初めてこの世界に足を踏み入れたクレメインのゲートの前にいた。千里はマーヤや、クルルや、フィルや、ゲドたち3人組や、エデンに暮らすみんなへの挨拶を事前にすませ、見送りにゲートまでやってきたのは朋也、ジュディ、ミオの3人だけだった。
 ゲートまでの道中は、森の入口でサイドカーを乗り捨て、徒歩でやってきた。ゲートが開通するまでの時間はまだあったので、せっかくだから4人で散策しながら行こうということになったのだ。千里が誘拐されっぱなしだったから、2人が一緒に冒険できた期間は本当に少なかったもんな……。
 千里は、今日が最後だというのにまるでピクニックにでも行くような足取りで、ジュディにせっせと話しかけていた。ジュディのほうは時折相槌を打ったり、冴えないギャグに笑うだけで、いつもの元気もなく言葉少なだった。代わりにミオがツッコンでフォローしてやってたけど。
 それでも、こういうときに限って、時間というのはあっという間にすぎてしまうものだ。こうして4人で歩けるひとときが永遠に続いてくれたなら、どんなにか素敵だったろう。だが、どんなに足を緩めても、いずれは必ず目的地に着いてしまう……。
 いつのまにか、4人はこの場所に来ていた。キマイラの指定した千里の出発の時刻までは後10分しかない。
 ゲートに上がる階段の途中で、千里はジュディと向き合っていた。
「ジュディのウエディング姿、とぉってもきれいだったわよ? いいなあ、私もあんなの着てみたいな~♪ でも……それにはまずイイ男を捕まえなくっちゃね。エヘヘ」
 自分の額をコツンと叩いてペロッと舌を出す。
「ご主人サマ……」
 ジュディの目は既に水道の蛇口状態だった……。
「夕べは朋也とたくさんお話しした? それともぉ……やっぱり新婚だもんね~♥♥♥ ふう、熱い熱い♪」
 どこから持ってきたのやら、懐から扇子を取り出して煽ってみせる……。オヤジの宴会芸かよ。
「ご主人サマ……」
 さっきからそればっかりだ。
「……もう、ジュディったらなんて顔してるのよ? せっかくの可愛い顔が台無しじゃないの……」
 苦笑していた千里だったが、徐に手を目にやってわざとらしくゴシゴシと擦る。
「……やだ……目にゴミが……入っちゃ……」
 声が途切れる。
 3人に背を向け、一生懸命両手で目を擦っているふりをしている千里に向かって、ジュディがかすれた声で訴えた。
「ご主人サマ……こっち……向いてよぉ」
「……駄目」
 今日1日隠し通そうとしていた本心が、つい声に漏れてしまう。
「私……バカ……絶対泣かないって……笑顔でお別れするって、心に誓ったのに……!」
「ご主人サマァ……」
 このとき、ジュディの顔つきが変わった。決意の表情をにじませる。彼女はいきなり朋也のほうを振り向いて、首筋に抱きつくと唇をふさいだ。
 びっくりしながら彼女をマジマジと見つめる朋也に、ジュディは自分の正直な気持ちを打ち明けた。
「朋也……愛してるよ……嘘じゃ……ないんだ……ゴメンッ!!」


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