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 アニムスをめぐる騒動が一件落着し、俺とマーヤの二人は神獣お墨付きの関係になった──はずだったけど、それは束の間しか続かなかった。なぜなら、俺は千里やジュディ、そしてミオと一緒に、元の世界へ還ることにしたからだ(ミオは当初残るつもりでいたが、土壇場になって決断を覆し帰郷を決めた)。
 本心を言えば、マーヤと共にエデンでずっと暮らしたかった。でも……エデンは救われたけど、向こうの世界は何一つ変わっちゃいない。動物たちが少しでも暮らしやすい世の中に──エデンのように──変えていくことが、トラやベスの遺志にもかなうんじゃないかと思うから……。そして、マーヤの願いにも……。まあ、剣も魔法もない世界で、俺たちにできることなどごく僅かだろうけど……。
 皮肉なものだ。絶望的な状況を二人して切り抜け、二度と離れないと誓い合ったのに、平和の訪れが二人を引き裂くことになるなんて……。といって、妖精の彼女を元の世界へ連れていけるわけもなない。俺たちの別れは必然だった……。
 クルルやフィル、ゲドたち三人組、そしてエデンで知り合った多くの住人たちに暇を告げ、一足先に元の世界へ還った千里たちの後を追い、俺は、あの日初めてこの世界へ降り立ったクレメインの森のゲートに向かった。帰還を決めたことを告げて以来、マーヤには会っていない。今日モノスフィアへ帰ることは教えてあったけど、果たして見送りに来てくれるだろうか?
 
 朋也たちの帰還の日から遡ること一週間前──マーヤはレゴラス神殿の玉座の間で神獣キマイラと対面していた。
≪マーヤか。今度はどうしたのだ?≫
 ソワソワしている彼女に向かってキマイラが尋ねた。ちなみに、彼はバックアップではなく本物のほうである。まだ実体のほうは完全に復活しておらず、透明度10%といった感じだが……。
「あのぉ、キマイラ様ぁ……お願いがあるのですがぁ……」
≪他ならぬお主の頼みだ。余に出来ることならば聞き届けよう。何なりと申してみるがよい≫
 如何にも言い出しにくそうな態度から、難題を吹っかけてくるのではないかと予感したが、それでも彼は心安く請合った。
 マーヤは意を決して自分の望みを打ち明けた。
「……あたしを……あたしをニンゲンにしてくださいぃっ!!」
 しばしの沈黙の後、キマイラは答えた。
≪ふむ……転生という意味ならもちろん不可能だが、外見上ニンゲンと区別がつかない程度の変更を加えることは可能だ。お主の動機を察すれば、それで十分であろうと思うが……。ただし、千年の寿命は棄てることになるぞ? 残りの人生は、お主がこれから生きるはずの時間の十分の一にも満たなくなるが……それでもよいのか? 一度ニンゲンになってしまえば、再び妖精に戻ることは不可能になる。よく考えて結論を出すがよい……≫


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