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 神獣キマイラと和解した朋也たちは、彼との誓約を果たし、エデンを救うべくモノスフィアに帰還するため、ゲートのあるクレメインの森にやってきた。
 森の中に入ってからもゲートまでの道のりは結構あるため、前の晩に泊まったビスタの街を出たのは早朝だった。一行は森の入口まで来て立ち止まり、南に向かって延々と連なる木々の梢をながめ渡した。
 モノスフィア出身の4人のうち一足先にやってきたミオを除く朋也たち3人がこの森に降り立ったのは、ほんの1カ月前のことだが、まるであれから1年くらい経ったかのような気がしてくる。朋也は感無量の思いでつぶやいた。
「……そもそも今度の冒険が始まったのがこの森だったんだよな。エデンに初めてやってきたのも、フィルと出会ったのも……」
 そして、フィルのほうを振り返る。
「フィル。君に逢えて本当によかったよ……」
 微笑みかけようとして、朋也はおや?といぶかしんだ。フィルが何やら難しげな表情をしたまま、彼のことすら目に入らない様子だったからだ。
「どうかしたの、フィル?」
「……樹々たちの様子が……おかしい……」
 フィルはゆっくり前に向かって歩いていった。すでにここは森の……すなわち神木の圏内だ。
「‥‥! ‥‥!? 何ですって!? ‥‥そんな!! ‥‥それは‥‥でも‥‥ 嫌です! 私は……」
 クレメインのメッセンジャー以外の6人は、彼女から少し離れて、フィルが手振り身振りを交えながら宙に向かって何やらブツブツつぶやくのを傍観していた。たぶん、森の木々、あるいは神木とコミュニケーションをとっているのだろう。植物の対話は地中や大気中の化学物質のやり取りを通じて行うって話だからな……。
 それにしても、話している相手の声も聞こえなければ、どの樹と話しているかもさっぱりわからないだけに、彼女の振る舞いはまるでパントマイムのようだ。そういえば、出会ったばかりの頃は、いちいち声に出したり顔色を変えたりなんかしなかったよな? やっぱり、メッセンジャーとして動物との──というより朋也たちとのコミュニケーションのほうが彼女にとって自然な形になってしまった所為なのか。もっとも、気になるのは、今の彼女と誰かさんのやりとりがどうも険悪な様相を帯びて聞こえる点だが……。
 どうやら対話は済んだらしい。あるいは打ち切られたのか……。フィルは理不尽な要求を呑まされたと言わんばかりの、明らかに焦燥に駆られた顔で、朋也たちに向かって訴えた。
「朋也さん! この森に入ってはいけない!!」
 彼女の言葉を聞いて、誰もが驚いた。
「フィル、一体どうしたっていうんだ!? 入るなったって、俺たちゲートに行けなきゃ元の世界へ還れないぞ??」
「ごめんなさい。ともかく、お願いだから、来ないで……来ては駄目!」
 そう言い残すと、彼女の姿は緑の光に包まれて消えてしまった。
「あっ、フィルッ!?」
 呼び止める間さえなかった。差し伸べかけた手を下ろし、朋也はただフィルの消えた場所を呆然と見つめた。


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