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「どうしちゃったのかな?」
 ジュディが首をかしげながら言った。
「ねえ……今、フィル、泣いてなかった?」
 クルルがとても心配そうに口にする。ていうか、自分が泣きそうだ……。確かにクルルの言うとおり、朋也にも消える直前の彼女が胸を痛めて今にも泣きそうな表情をしていたように見えた。
「どうするのよ、朋也? そんなこと言われても、私たち還らないわけにはいかないのに……」
 千里が顔をしかめながら尋ねてくる。
「ああ……。ともかく、ゲートの所へ行ってみるしかないな。フィルの様子が気にかかるけど……」
 彼女の忠告に逆らうのは本意ではなったが、こっちには森を通り抜けなくてはならない明確な事情があるし、理由も告げずに消えられては、こっちとしても手の打ちようがない。
 一行は仕方なく、少し警戒をしつつ森の中に足を踏み入れた。もっとも、クレメインの森は神木の張る結界のおかげでかなりレベルの低い小柄なモンスターしか出現しない。モンスターアリも復活している様子は見られない。やっぱり朋也には、どうしてもフィルがクレメインへの立ち入りを禁じた理由が思い当たらなかった。
 緩やかな斜面を上がり、ミャウ=ミオと初めて出会った高台を通り過ぎる。チラッと彼女の顔を見ると、彼女はバツが悪そうに目を逸らした。まだあのときのこと、気にしてるらしいな。実は、ミオは朋也たちと一緒にモノスフィアへは還らず、エデンに残る道を選んだ。今はマーヤやクルルと同じで、見送りで朋也たちに同行しているのだ。できればもう少し彼女とゆっくり話す機会が欲しかったな……。
 さらに進むと、一行はジュディが転落して危うく死にかけた吊り橋にさしかかった。ゲドが壊した橋は、ビスタの妖精の手で修理されて渡河できる状態に復元されていた。
 朋也が足を踏み出しかけたとき、サラサラという葉擦れの音とともに、吊り橋のちょうど真ん中にフィルが出現した。
 よかった、戻ってきてくれた。あのまま会えずに還らなくちゃならないのかと不安になっていたところだったので、彼はホッと胸をなで下ろした。
「フィル! 急に消えちゃうから心配したよ? 一体何があったん──」
 橋の上の彼女に朋也が呼びかけようとしたとき、フィルは彼に最後まで言わせず言葉を遮った。
≪侵入者ヘ警告スル。直チニコノ森カラ立チ去レ≫
「フィ、フィル……」
 今のは……彼女の声、なのか!?
≪繰リ返ス。直チニコノ森カラ立チ去レ。先ヘ進メバ命ノ保証ハシナイ……≫
 そう言い残すと、彼女は登場したときと同じように緑のきらめきに包まれ姿を消した。いま、なんて言ったんだ!? 命の保障はしない、だと!?
「今の、本当にフィルなの!? まるで別人になっちゃったみたい……」
「今のは間違いなくクレメインの森の精、フィルだわぁ。中身はすっかり変わってしまってるけどぉ……。ともかく、この森に重大な異変が起こってるのは確かねぇ……」
 マーヤがいつになく深刻な表情でつぶやく。フィルと一番付き合いの長い彼女が言うからには、間違いなく今のはフィルなんだろう。
 それにしても、今の彼女はまるでマネキンのようだった。声にも動物らしい感情が微塵も感じられない。誰かに操られているような感じだ。
「どうする、朋也?」
 ジュディが彼のほうを見る。


*選択肢    ゲートへ急ごう    神木の所へ行こう

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