「……千里、ジュディ、ごめん……。還るのはちょっと待ってもらえないかな? 俺……フィルをあんなふうにしたまま放っておけない! 神木の所へ確かめに行きたいんだ!」
2人に向かって深々と頭を下げる。
「いいわ、付き合ってあげる。朋也の大切な人だものね……」
「ボクももちろんOKだよ!」
2人とも朋也の申し出を快く受け入れた。
「ありがとう、2人とも……」
続いて他の3人の方を見る。
「ミオとマーヤとクルルも付き合わせちゃうけど、構わないか?」
「あんたといられるのも後少しの間だし、育ててくれた分ちょっとは恩返ししたげるわよ」
「ぜぇんぜんOKよぉ~♪ あたしだってフィルとは友達なんだからぁ!」
「クルルも手伝うよ!」
パーティーのみながフィルのことを気遣って快諾してくれたことを、朋也は心から感謝した。
「悪いな……。よし、森の奥へ進もう!」
一行はさらに森の深部を目指して歩を進めた。ときどき道の両側の原生林に目をやる。フィルの口を借りた誰か──としか思えなかった……その誰かとはおそらく神木だろう──は、進めば命はないなんて物騒なことを言っていたが、今のところ何も不穏な動きは感じられない。悪戯であればそれに過ぎたことはないが、だとすればあまりに悪質だし、フィルにそんなことを言わせるのは許しがたい。もっとも、不吉な予感は始終朋也の胸に付きまとっていた。たぶん、たとえゲートに向かったとしてもすんなり還してはもらえないのではないかという気がする……。
昼前に軽くみんなで腹ごしらえをする。食欲は湧かなかったが、しっかり食べておいたほうがいいと虫が知らせたのだ。メニューはもちろん、クルルのビスケットだ。無事に帰還ということになれば、彼女のビスケットをご馳走になれるのもこれが最後になる。みなフィルのことが気になり、言葉少なだった。ビスケットも砂を噛むようで味がしない(それはもともとなのか……)。
午後に入って、森の中央にある神木の広場まで後少しというところまで来た。周囲の木々もより歳旧りた老木が主を占めるようになる。おそらく森中に張り巡らされたネットワークを通じて、自分たちに関する情報は神木に伝わっているだろう。邪魔は今のところ入っていないが、緊張感がいや増しにも高くなる。
「なんかオバケの森みたいだね……」
そう表現したのは、奥まで入ってくるのは今回が初めてのクルルだ。
言われてみて、改めて鬱蒼と茂る木々を見回してみると、確かにおどろおどろしい印象を拭えなかった。樹の幹や頭上に広がる枝葉が、のしかかり、覆い被さって、自分たちを窒息させようと企んでいるのではないかという錯覚に捉われそうになる。朋也自身は森の中で迷子になったときも、木々や森そのものに恐怖を感じたことはなかったのだが……。変わり果てたフィルの有様を目にしたことが、心理的な圧迫感につながっているんだろうか?
最後の細い小道を抜け、一行は神木の広場へ到着した。創世の時代から生えていたといわれる世界最古の古木は、見た目には以前と変化はなかったが、朋也は神獣ともモンスターとも異なる敵意のようなものを感じ取った。ゆっくり木の前に歩いていく。
突然、神木の幹の表面がボコボコと盛り上がり、人の形を取り始めた。
「フィ……フィル!?」