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 彼女の名を呼ぼうとするが、言葉がかすれて声にならない。美しい光に演出された今までとはまったく異なる登場の仕方だ。フィルの身体は神木と一体化し、まるで幹から伸びる枝の1本のようだった。警告を無視した侵入者に向かって、メッセンジャーの口を借りた神木が無表情な声で言い放った。
≪愚カ者メ。来レバ命ハナイト言ッタハズダ≫
「神木、一体どうしちゃったんだ!? 俺たち、何か森の機嫌を損ねるようなことしたのか? 何が不満なんだ? アリモンスターだって退治してやったじゃないか? あんたも喜んで俺にこの杖をくれたろ?」
 朋也は気持ちを落ち着かせようと努めながら、〝彼〟に向かって尋ねた。
≪アレハめっせんじゃーガ勝手ニシタコトダ。我ラハオ前達ノヨウニクダラヌシガラミニハ囚ワレヌ。我ハ動物ニ対シホトホト愛想ガ尽キタ≫
「あ、愛想が尽きたって……動物全てに対して言ってるのか!?」
 唖然として訊き返す。
≪ソウダ。我ハあーびとれいたー:裁定者トシテ、コノ間一切介入スルコトナク神獣ニヨルえでんノ統治ヲ見守ッテキタ。ソシテ今、裁定ヲ下スベキ時ガ来タ。神獣ニハコノ世界ヲ管理スルダケノ能力ガナイコトガ、コレデ明確二証明サレタ。彼ラハ危ウク世界ヲ破滅ニ導クトコロダッタ──シカモ、2度モダ。3頭ノ神獣ノウチ二頭ガ弱体化シタ。3度ノ幸運ハ期待デキナイトイウコトダ。モハヤオ前達ニハ任セテオケヌ。世界ノ趨勢ヲ決定スル実権ハ我ラガ握ル。動物ハ全テ撲滅スル≫
「何ですってぇーーっ!?」
「そんなのメチャクチャだよっ!!」
 仲間たちの誰もが耳を疑う台詞だった。朋也自身も信じられない気持ちながら、なおも冷静になろうと自分に言い聞かせ、なんとか神木を説得しようと試みた。
「俺たちに至らない部分があったのは認めるよ。でも、いくらなんでも撲滅はないだろ!? 動物も植物も、同じ生きものとして長い間この世界で共生してきたんじゃないか! あんたたちだって、俺たちがいなきゃいろいろ困るだろ? 虫や鳥や獣が種を運んだり、養分になったりするから、草や木も──」
≪共生デハナイ。〝寄生〟ダ。オ前達ニ役割ヲ与エテヤッタノダ。オ前達ハ我ラナクシテ存続シ得ナイガ、我ラハオ前達ノ存在ナド別ニ必要トシテイナイ。オ前達ハアノあり達ト、もんすたーと同ジ〝害虫〟ダ。かおすヲモタラスバカリダ。健全ナ環境ヲ維持スルタメニ駆除スベキトイウノガ、我ラノ結論ダ≫
「そんな!!」
「ボクたち、駆除されちゃうの!?」
≪ソモソモ世界ノ初メニハ我ラノミガ存在シタ。我ラノ築キ上ゲタ安定シタ環境ニ、オ前達動物ガ便乗シテキタノダ。オ前達ヲ滅ボセバ、世界ニハ完全ナ調和ト静寂ガ訪レル……ほめおすたてぃっくナ理想ノ世界ヲ再現スルコトガデキル。オ前達ガ原因トナリ分離シタ世界ノ片割ものすふぃあモ、我ラガめたすふぃあヲ造リ変エレバ影響ヲ及ボセナクナル。あにむす自体無用トナル≫
「朋也……あたい、こいつ気に入らニャイわ。キマイラの方がよっぽどマシよ!」
「私も聞いててだんだん腹が立ってきたんだけど……」
 ミオと千里の感想がここまで見事に一致したのは前例がない……。朋也ももはや〝彼〟を説得する言葉を持たなかった。
「ああ、俺も同感だ。神木! あんたの屁理屈には付き合ってられない! それより──」


*選択肢    フィルを返せ!    俺たちを帰せ!

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