最初に打って出たのはやはりジュディだった。
「こんにゃろ~、ご主人サマの仇だ! 受けてみろ!」
ジュディが斬り込んでくる。おいおい、まだ当人はピンピンしてるのに……。
彼女はリルケに向かって剣を滅多やたらに振り回したが、リルケは軽々と身をかわしていく。2人の身のこなしの差は一目瞭然だった。しまいにはジュディは剣を弾き飛ばされてしまう。
「うわあっ!!」
手を抑えてしゃがみ込むジュディに、千里が駆け寄る。
「よくもうちの子をいじめたわね!?」
キッとこっちをにらみつけると、背中に背負った機関銃を乱射し始める。かなりきてるなあ……。リルケはサーベルをクルクル回転させ、魔法の弾丸をすべて弾き返してしまった。続いて彼女の懐に飛び込んでいく。
「無影突!!」
必殺の奥義を千里に向かってかます。手加減してくれって言ったのに。
と──セーラー服が切り刻まれ、彼女は下着一枚になった。白だ──。それに……結構着痩せするタイプなんだな……。
「いやああああっ!!」
「このスケベ野郎!! ご主人サマに何てことを!!」
だから野郎じゃないって……。
「おいおい」
「何だ? 手加減しろと言ったではないか?」
リルケはすました声で答える。
動きを封じるのに都合がいいのは確かだが、こっちが目のやり場に困ってしまうため、朋也は自分の制服を脱いで敵陣に放り投げてやった。ジュディが拾いにいって、前を手で抑えてしゃがみ込んでいる千里に手渡す。
「もう本気で怒ったわよ、この変態ガラスッ! ジェネシスッ!!」
千里は彼の制服を羽織ると、怒りで顔を真っ赤にさせながら最強魔法の詠唱に入った。うわ、もう来んの!?
「朋也ッ!」
リルケは素早くこっちへ来いと指示した。何か策でもあるんだろうか? と思っていると、彼女のほうも呪文の詠唱を始める。
「ダイヤモンド・リフレクト!!」
彼女の唱えたのは、以前にも使ったことのある強力な無属性魔法ダイヤモンドだったが、今度は使い方がちょっと違っていた。ダイヤモンドの光は先方を攻撃することなく、2人の周りに魔法の防壁を張り巡らせた。千里の放ったジェネシスはその壁にぶつかり──自分たちに向かって跳ね返された……。
「きゃあああっ!」
クルルがもろに食らってノックダウンしてしまう。
「やってくれたわね、朋也ッ!!(`´)」
俺の所為にするなよ、自分で放ったくせに……。
それにしても魔法を反射壁代わりにするなんて、見事としか言いようがない。魔法を反射する手段はクルルたちウサギ族の特殊スキルくらいしかないはずだった。しかも、ジェネシスのような高位魔法に対してはほとんど効果がない。彼女がいかに熟達した魔法のエキスパートかを如実に示すものだった。
「審判ッ! 今のは反則じゃニャイの!?」
ミオが場外に下がって観ていた2人に食ってかかる。
「いえ、反則ではなく反射ですわ」
ボケられてるし……。
ジュディの剣撃も千里の魔法も通用しないとなると、すでに勝負は見えてきたも同然だ。しかも、朋也はほとんど何もしていないに等しいのに……。
ミオが前に出てきた。朋也の正面に立つ。俺とやる気なのか? さすがに彼女と戦うのは気が引けるなあ──と思って怯んでいると、彼女のグリーンの目からポタポタと涙が滴り始めた。
「ひどいわ、朋也……。あたいが何でエデンにやってきたと思ってるの? あんたのことが好きだったからよ! 向こうの世界ではかニャわぬ恋だったけど、エデンでニャらきっとあんたと結ばれることもできるって思って……。ニャのに、こんニャ鳥の足ニャンかと・・こうニャッたら舌噛み切って死んでやるニャ~! ウニャニャァァン!」
その場に突っ伏して大声で泣き始める。リルケも困った顔をして頭を掻いている。朋也は少し思案した末、リルケに耳打ちした。
「羽根を一枚貸してくれる?」
リルケは首をかしげながらも言われるままに自分の翼から1枚抜き取った。朋也はそれをサーベルの先に結わえ付けると、ミオの目の前に差し出してヒラヒラと振って見せた。
「ほぉら、ミオ~♪ こっちこっち」
尻尾がピクンと立ち上がり、続いて左右にパタパタと揺れ始める。ついに彼女は我慢できなくなり飛びついてきた。
「ウニャニャッ!」
「ほら、やっぱり演技だった」
彼女の黒い羽根をくわえて戯れているミオを指差しながら、リルケに説明する。
「なるほど」
ミオは立ち上がると羽根を引きむしって怒鳴った。感心してうなずいているリルケに人差し指を突きつける。
「きーっ、悔しい~っ! あんたの羽根全部むしって丸裸にして唐揚決定ニャ!!」
それから彼女は場外で眺めていた2人の審判に声をかけた。
「審判! タイムターイム!」
それから、4人で円陣を組んで協議を始める。ミオは千里に向かってしきりに何かアドバイスをしていた。
「どっちも頑張れぇ~~♪」
気楽な副審だなあ……。しばらくして休戦が解かれる。ミオは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、2人に向かって宣言した。
「次の一撃であんたたちも一巻の終わりよ! あたいをフッた恨み、思い知らせてやるニャ~♪」
世界を賭けて戦ってるんじゃなかったのかよ……。他の3人の顔も同じように勝利の確信に満ちているところを見ると、ハッタリというわけでもないようだ。
4人は何やら一斉に呪文を唱えはじめた。魔法か?
「バステッド!!」
「ウーの神様!!」
「エル、お願い!!」
「アテナ!!」
4人の頭上に守護鉱石の光がオーラのように立ち上り、それぞれの種族の裸身の女性が現れる。ま、まさか……噂に聞く召喚魔法か!? ヒト族の守護神獣はもういないものと思ってたのに……。どこで調べてきたんだ、ミオのやつ!? しかも俺に内緒で……。
4色の強力な全体魔法が2人に襲いかかる。召喚魔法に対してはダイヤモンド・リフレクトさえも通用しなかった。ジェネシスに準ずる威力があるだけに、さすがにこれはこたえた。物理・魔法とも攻撃力に秀でたリルケだったが、カラス族のスキルには十分な回復用の技がなかった。そのうえ、アイテムはミオが押さえていたため、朋也には手持ちの回復手段がない。
くっ……もう一撃食らったら確実に2人ともやられてしまう……。