≪ジェネシス!!≫
いきなり大技からくる。先ほど戦ったときキマイラが放ってきた最強魔法を数段上回る威力だ。魔力の高いフェニックスの力がベースになっているんだろう。こっちは全体回復の特殊スキルを持っているマーヤとフィルが戦闘から外れたため、回復手段は千里の魔法クリスタルと残る2人の毛づくろいしかなく、いずれも単体用だ。朋也は何も持ってない……。全体攻撃を続けられると圧倒的に不利になってしまう。
「手早く片付けるニャ!」
ミオも朋也と同様の判断を下したようだ。
「ジェネシス!!」
千里が最強魔法をお返しする。属性を持っている三神獣本体なら効果が減殺されるところだろうが、リルケの身体を媒体にしている超神獣には効くはず──
ところが、超神獣リルケは朋也たちの予期せぬ対抗手段を使ってきた。
≪ダイヤモンド・リフレクト!!≫
超神獣の前に、魔法のダイヤモンドによって作られた光の壁が築かれる。それは、千里の放ったジェネシスをそっくりそのままこちらに跳ね返してしまった。
「うわあああっ!!」
「ふにゃああっ!!」
ヤバイ! 反射によって拡散されているとはいえ、これではジェネシス2発分のダメージを受けたも同然だ。何かあと一撃でもくらえば全滅は必至だった。そのとき、4人に回復魔法のセラピーがかけられた。
「い、一度だけの特典サービスだからねぇ~……」
マーヤが見かねて手を貸してくれたのだ。彼女は神獣ににらまれないうちにそそくさと引き返していった……。
「すまない、助かる!」
それにしても厄介な技だ。魔法反射はクルルたちウサギ族のスキルの専売特許だと思っていたのに。それだって最強魔法ジェネシスに対してはほとんど通用しない。これでは魔法攻撃が頼りの千里は手を封じられたも同然だ。
「朋也、パス! 後は自分でやって!」
ミオが予防策として手持ちのアイテムを全部自分に渡してきた。
「くっそぉ、じゃあこれでどうだ! 牙狼ッ!!」
ジュディがイヌ族の必殺奥義を繰り出す。事実上、パーティーの所有する物理攻撃手段の中では最強の技だ。
≪ダイヤモンド・リフレクト!!≫
超神獣はどういうわけかまた同じ術を行使してきた。ダイヤモンドの壁は、なんとジュディの必殺技まで弾き返してしまった。そんな!? 魔法の癖に物理攻撃に対してもバリヤーとして働くのか!? 敵の弱点を狙って一撃必殺のダメージを与える牙狼の反動で、シエナで手に入れた上等の剣が粉々に砕かれてしまう。しかも、彼女は手首をいわしてしばらく使い物にならない状態だった。
なんてこった……。よもやここまで苦戦を強いられるとは思わなかった。千里の最強魔法も、ジュディの最強剣もまったく通じない。ジュディが剣を持てない状態で、3連携攻撃も使えない。同じ物理攻撃主体でも、ヒット率の高さを武器に数を重ねてダメージを積み上げるタイプのミオでは、あのダイヤモンドの壁の前ではジュディ以上に無力だろう。おまけに回復手段も限られてしまっている。
≪ジェネシス改!!≫
追い討ちをかけるように、超神獣はさらに恐るべき技を繰り出してきた。ジェネシス改──それは、3属性の重ね合わせであるジェネシスに、無属性のダイヤモンドをもう一段重ねた4重魔法だった。3原色の光とともに白熱の閃光が炸裂する。
「ぐわあああっ!!」
「きゃあああっ!!」
ジュディとミオはもはやノックアウト寸前だった。魔法防御力の高い千里でさえ苦しそうだ。もちろん朋也も。4人とも、世界を救うという意志だけでどうにか立っているも同然だった。
「ふわぁ~~ん、どうしよぉ~!? もう1回かけてあげたいけど、あの顔恐いしぃ~……」
場外でマーヤがオロオロしている。
≪思い知ったか! 神を超えたつもりでいる愚か者め! 世界の在り様を決定できるのは我ら守護神獣のみ! 神の掟を歪めようとする者には天誅を下すまでだ!!≫
駄目だ……このままでは確実にやられてしまう……。何とかあのダイヤモンドの壁を打ち破る方法はないものか──
朋也はそこで1つのアイディアを閃き、一か八かの賭けに出ることにした。
「ジュディ! フルムーン頼む!」
彼女に攻撃力アップのスキルをかけてもらう。
「何をするつもりニャの!?」
訝しむミオには答えず、超神獣に狙いを定める。
「無影突!!」
≪ダイヤモンド・リフレクト!!≫
朋也はリルケと行動を共にしたあのポートグレーの1日で身に付いたカラス族の必殺奥義を繰り出した。ダイヤモンドの壁に向かって。魔法のダイヤも鉱石のダイヤの硬度が基準になっているはずだ。そして、朋也の手にするサーベル傘の素材はカーボナノチューブ、すなわちダイヤに近い硬度を持つ材質だ。P.E.の効果もプラスされている。そして、突きを集中させる朋也の技は、一点にかかる力積でいえばジュディの牙狼をも凌駕するはずだった。
はたして、彼のサーベルは魔法で作られた光の壁をも突き破り、リルケの腹部を占めるキマイラの獅子の顔を直撃した。
≪ぐ、ぐおっ!?≫
「千里! ミオ! このまま俺に向かってジェネシスとエレキャットをぶち込んでくれ!!」
サーベルを通じてダメージを送り込み、超神獣を内部から破壊しようというのが朋也の算段だった。
「バカ言ってんじゃニャイわよ! そんニャことしたらあんたまで死んじゃうでしょ!?」
「そうよ!? 私たちに朋也を殺させる気なの!?」
「いいんだ……」
目を見張って自分を見つめる3人に続ける。
「リルケをこんな醜いバケモノにしちまったんだ。エデンを救うっていう彼女の希望にも背くことになるんだし……。だったら、俺も彼女と一緒に生贄になるよ……俺たちの世界を護るために……」
「嫌よっ!! そんなことできない!! できっこない!!」
泣き叫ぶ千里に向かって怒鳴る。
「早くしろ!! 時間がない! それに、こいつが──」
そのとき──彼の頭の中で声が響いた。
〝朋也……〟