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「──というわけで、俺は今からサファイアの在る場所へ行こうと思うんだ。うまくすれば、カイトやキマイラの待ち受けるレゴラスにわざわざ乗り込まなくても、エデンを救えるかもしれない。ジュディもきっと助け出せるんじゃないかな?」
 朋也はいま、パーティーの仲間たちを呼び出して夕べニーナと出会った砂洲の突端に来ていた。証拠のワッペンをもらってもなお夢だったような気が抜けず、果たしてまた会えるのかどうか半信半疑だったが、彼女はちゃんとそこで待っていてくれた。ミオたちはみんな彼が寝惚けてたに違いないとたかを括っていたので、実際に目の前に人魚が現れたのを見ると腰を抜かさんばかりに驚いた。
 朋也に説明を受け、仲間たちはしばらく考え込んでいた。徐にミオがニーナに向かって尋ねる。
「……1つ聞かせてもらうけど、蒼玉は何を司るアニムスニャの?」
「それは──」
 ミオの問いに、ニーナは難しげな表情をしてうつむいてしまった。
 彼女が答えようとしないため、ミオは肩をすくめてため息を漏らすと、朋也を振り向いた。
「悪いけど、あたいは降りさせてもらうわ。あたいが興味あるのはルビーとエメラルド、力と叡智のアニムスよ。そんニャ得体の知れないアニムスにニャンか用はニャイわ」
「おい、ミオ!?」
 彼女は踵を返すと、朋也が呼び止めるのも聞かずに街に引き返していった。
「ミオ……」
 後ろ姿を呆然と見送る。興味があるのはルビーとエメラルド? あいつ、何考えてたんだろうな……。
 続いて質問台に立ったのは千里だった。
「……ジュディを助けられるっていうけど、そのサファイアを使って一体どうやって助けるつもりなの?」
 今度もニーナは下を向いて言葉を濁してしまった。
「言葉では……説明できないわ……」
 その先の返事がないため、千里は軽くため息を吐くと言った。
「こっちはジュディの命がかかってるのよ? 期限は明日までなのに、そんなわけのわからない理由で海の底まで付き合えないわ! 私はジュディを確実に助けたい! 少なくとも、私がレゴラスへ行けば彼女は助かる……」
 そこで朋也を振り返る。
「ここでお別れね。朋也が一緒に来てくれないのは残念だけど……」
 わずかに非難のこもった口調でそう言うと、千里もミオに引き続いてその場を立ち去っていった。
「千里……」
 彼女には、朋也と同じようにニーナを信じることのできる理由がない。それに、5:5でも2人を助ける方法を見つけたいと思っている彼と違い、千里はたとえ自分が0:10でもジュディを10:0で助けたいのだろう……彼女を無理に引き留めることはできなかった。
 これで2人離脱か……。残る2人の仲間に顔を向ける。
「クルルは俺たちと一緒に来てくれるかい?」
「うん。2人も心配だけど……もっと平和に解決できる方法があるなら、試してみてもいいと思うよ?」
「マーヤはどうする?」
「そうねぇ。クルルの言うことにも一理あるしぃ、蒼玉とその守護神獣の所在がわかるのなら、この目で確かめてみたいわぁ」
「ありがとう、2人とも……」
 朋也はホッとして2人に頭を下げた。さすがに1人だと心細いことこのうえなかったし……。
 改めてニーナを振り返る。
「ニーナ、これで面子が揃ったよ。早速、蒼玉の所へ案内してくれないか?」
「いいわ。それじゃあみんな、私についてきてくれる?」
「ついてきてったって、クルル泳げないよ~」
「あたしもカナヅチィ~~」
 心配げな2人に向かって微笑むと、ニーナは朋也に向かって言った。
「大丈夫。朋也、ワッペンをかざしてくれる?」
「えっと、こう?」
 朋也は彼女に授かったイルカのレリーフの入ったワッペンを頭上に掲げた。と、青白い輝きがワッペンからあふれ出る。思わず顔を遠ざけ、目をつぶってしまう。恐る恐るもう一度目を向けると、光の中にニーナによく似た人魚の姿が現れ、朋也たち3人に向かって水飛沫を撒き散らした。うわっ、ずぶ濡れになっちゃうよ──と思ったが、それは水ではなかった。全身が温かい青い光に包まれ、身体の中に染み透っていくように感じる。3人が洗礼を受けたのを確かめたように頷くと、人魚は宙に身を躍らせ光に吸い込まれるように消えていった。ワッペンの輝きもそこで途絶える。
「彼女はヒーカーヒー。私たちイルカ族の守護神獣よ。彼女の加護を得たことで、あなたたち陸棲の種族でも自由に水中を移動できるわ。さあ、私に続いて!」


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