一見カリブ海のブルーホールのような、琥珀色の澄んだ水で満たされたサンゴのプールを、下へ下へと潜っていく。潜るにつれて辺りも次第に薄暗くなっていく。四方にはサンゴの壁がそそり立ち、まるで朋也たちに向かって倒れこんできそうに感じる。
頭上を振り仰ぐと、この海底洞窟の円い入口が波に揺らいで見えた。もう海面からこんなに遠ざかったのか……。すでに100メートル以上は潜ったに違いない。ヒーカーヒーの加護のおかげで潜水病の心配もないとのことだが、さすがに心理的な圧迫感は否めない。マーヤもクルルも不安のせいか口数が少なくなる。どこまで降りても海底にたどり着く気配はない。
ようやく海底が視界に入ってきた。そして、暗がりの中に何かがぼんやりと光り輝いて見える。光の正体が明らかになるにつれ、ニーナに連れられてきた3人は息を呑んだ。
それは、淡い青緑色を帯びた乳白色に光る荘厳な建造物だった。外見の特徴はオルドロイの神殿に少し近いものがある。門の上のシンボルは鳥ではなく鯨を象ったものだが。
なるほど……海のど真ん中にある無人のサンゴ礁の、そのまた湖の底深くに眠っているとすれば、誰にも所在がわからなくて当然だな。
朋也がそのことを話すと、ニーナの口からは意外な返事が返ってきた。
「蒼玉があるのはここではないの。この場所は、サファイアのアニムスを納めるタイクーン神殿に通じるゲートの入口……」
そこまで厳重に隠されているのか……。まあ、世界を意のままにできる力を秘めているだけに、それも不思議とはいえまい。エデンの住民は善良な人々ばかりだけど、170年前に大事件を引き起こしたニンゲンみたいなやつが出てこないとは限らないしな……。
神殿の玄関口に当たる建物の内部に入っていく。何となく、海底に沈んだアトランティスの遺跡でも探検しているような気分だ。ほどなく、3つのアニムスを模した転送装置に囲まれたゲートが現れる。
ゲートの前には番人がいた。ホオジロサメと、ウツボと、アンコウがくっ付いたようなやつだ。双頭、3頭のサメが登場するB級サメ映画があった気がするけど……。
「我ハ神鯨れヴぃあたん様ノ僕、ぷろときまいらナリ。コノ先ニハハルカ3まいるノ海底ヘト通ジルげーとガアル。高圧ト永遠ノ闇ニ閉ザサレタ過酷ナ世界──ソコガ神鯨様ノ御座所ダ。疑念ト怯臆カラ自由ニナレナイ柔ナ心ノ持チ主ガ足ヲ踏ミ入レヨウトスルナラバ、タチマチニシテ身ヲ粉ニ砕カレルデアロウ……。オ主ニ神鯨様ト相謁エルダケノ強イ意志ガ備ワッテイルカドウカ、検査スルノガ我ノ務メナリ」
3重の奇妙な声で訪問者に告げると、威嚇するように3対の目をギョロリと向け、3つの真っ赤な咽喉とその縁にズラリと並ぶ三角形の鋭い牙をひけらかす。
クルルが後ろでビクビクしているのがわかる。ヘビが苦手なだけに、ヘビっぽい魚も駄目だろうな……。
「ごめんね……これも一応ルールだから」
そう言って彼女はプロトキマイラに鉾先を向けた。
「小手調べだと思って。でも、気は抜かないでね!」