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 アニムスをめぐる騒動が一件落着し、俺はキマイラとの約束どおり、元の世界へ還ってこれ以上エデンに悪影響が及ばないよう、ニンゲンの行いを糾すべく努力することになった。とは言ったものの……エデンや神獣やアニムスの存在など誰も信じてくれるはずはないし(○○○○扱いされて病院送りが関の山だ……)、剣も魔法もない世界でどうやって世界中の人々を説得すればいいものやら、正直途方に暮れていた。勢いであんなこと口走るんじゃなかった──後悔先に立たず。
 しかも、1人で、だ──。
 ミオとジュディはエデンに残ることにした(ま、そりゃそうだよな……)。千里も、ジュディと離れたくないとエデンに留まることを決意した(俺が親に説明するのか? 何て言やいいの!?)。
 そんなわけで、世界を救うという大任は自分1人の手に委ねられることになったのだった……。

 キマイラの指定したゲート開通日を4日後に控え、朋也はオルドロイの北側の山麓にあるキリスウングル温泉に来ていた。ミオや千里たちが、エデンを危機から救う英雄(にこれからなりにいくところの……)朋也を激励する壮行会を開いてくれることになったのだ。まあ、還る前に温泉で骨休みくらいして行ってもバチは当たらないよな? 本当は三日と言わず、1ヵ月でも2ヵ月でも浸かっていたかったけど……。
 もともとそれほど大きな観光地でもないし、モンスターが出現してから客がめっきり少なくなり、シーズンオフということもあって、いま泊まっている寂れた旅館には朋也たちしか訪れていなかった。おかげで、和室風の4人部屋を朋也1人が独占状態で使うことができた。宿代はミオが持ってくれた。キマイラ戦が思ったよりあっさり決着が着いたため、鉱石にはまだ余裕が十分あったこともある。
 到着してから特にすることもなく、窓から煙の棚引くオルドロイ山をぼんやりとながめる。神殿のある南の反対側が荒涼として緑が少なかったのに対し、北側は山腹まで森に覆われていた。紅葉の季節にはまだ早かったが、麓の辺りの森の木々にはところどころ紅や黄が混じり始めている。女の子たちは朋也へのお土産を買いに行くと言って温泉街に繰り出していた。まあ、自分たちでワイワイ騒いだりショッピングを楽しむのが主目的だろうけど……。
 しばらくして雄大な山の景色にも飽きてくると、旅館の名物の露天風呂に行ってみようと腰を上げる。そういえば、ここの露天風呂は混浴って話だったっけ? だからって別に意味ないけど……他に客いないんだしな。
 部屋を出ようとしかけたところで、ミオが入ってきて鉢合わせになる。
「なんだ、早かったな?」
「うん。一風呂浴びてからまた行こうと思って」
 そこで彼の手にした洗面用具に目をやる。
「もしかして、朋也もいまから行くとこ?」
「え? ああ……。だけど、お前たちが行くんなら、後に回すよ」
 部屋の中に戻りかけた朋也に向かって、ミオは何やら悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「何よ、水臭いわね。あたいたちの仲ニャンだから別に遠慮することニャイわよ。用意してくるから、少ししてから来て? 水着で待ってるから乞うご期待ニャ~♪ あ、朋也もちゃんと水着で来なくちゃ駄目よ♥」
 そう言ってヒラヒラと手を振ると、ミオはドアの向こうに消えた。彼女たちと混浴かあ……。高校生の身でそんなことが許されるんだろうか?? いや、問題は何もないはずだ。そういう温泉なんだし、水着なんだし、世界を救いに行くんだからそのくらいの役得があってもいいよな!? と自分に言い聞かせる。
 そうだ、水着なんて持ってないぞ!? どうしよう? この辺で海パンなんて売ってるんだろうか? ミオたちが待ってるんだから急いで入手してこなくては!
 朋也はドキドキしながら更衣室で制服を脱ぐと(海パンはもちろん部屋で履いてきたんだけど)、風呂場に通じるドアに手をかけた。水着を着た6人の姿を思い浮かべる。う~む……想像するだけでも鼻血が出そうだ。さあ勇気を出して入るぞ! 彼女たちのほうからOKって言ったんだし。役得だ、役得!
 意を決して飛び込む。一面に湯気が立ち上り何も見えない。変だな……彼女たちのキャーキャー言う声が聞こえてきてもよさそうなのに。まだ来てなかったのかな? まさか海パン探しに行ってる間に出ちゃったわけじゃないよな? 100メートル全力疾走で駆け戻ってきたのに。
 首をかしげながらも仕方ないので湯船に浸かる。と……何かが水面にプカプカと浮かんでいるのが目に入った。ビキニのブラだ……。
 何だこれわ? これじゃ、水着で待ってる、じゃなくて水着待ってるだろ……。一気に脱力して沈み込む。ちくしょ~、ミオのやつ、人をさんざん期待させといて! 腹が立ったので頭からかぶってやろうかと思ったが、それじゃただの変態になってしまうと思い留まる。そんなとこを誰かに見られでもしたら、ヒト族の評判をますます貶めること請け合いだ。誰が着けてたのかもわからんし……。
 風呂から上がってがっくりしながら廊下を歩いているとミオに出くわす。朋也が非難の目つきで見ると、彼女は悪びれたふうもなく言った。
「やあねえ、笑いをとってあげたんじゃニャイの♪ おかげで顔の筋肉がほぐれたでしょ? でも、今度は正真正銘、ホンモノのサービスヨ♥ 朋也を労ってマッサージの特別奉仕をしたげる♪ あんたの好みの子を呼んで行かせるから、部屋に帰って待っててチョーダイネ♥」
 好みの子、かあ……。誰を寄越すつもりだろう? 本人──じゃあやっぱしないだろうなあ。こっちは別にミオでも全然OKなんだけど……。千里? ジュディ? あの2人は依頼を引き受けそうにない気がする……。とすると、マーヤかクルルか……大穴でフィルということも考えられなくはないな。それとも、呼んで行かせるってことはパーティーのメンバーじゃないんだろうか? だとしたら、エシャロットのお姉さんとかお魚ちゃんとか……グラマーなエシャロットもスレンダーなお魚ちゃんも、どちらの魅力も捨てがたいものがあるな、う~む……。
 自室に戻ってそんなことを考えながら、心ここにあらずの体でエデンの新聞を寝そべって読んでいると、しばらくして誰かがドアをノックした。
「あ、開いてるよ」
 ドキドキしながら居住いをただす。と……のっそりと部屋にあがってきたのは3人組のジョーだった……。
「ミオに朋也の兄ちゃんのマッサージするように言われて来たんだけど、おいら今までそんなことやったことないんだよ、ホントにね」
「……卓球でもしに行こうか」
 せっかく温泉に来てるんだしな。確か地下に卓球台があったはずだ。エデンの卓球が向こうの卓球と同じかどうか知らんけど。
「おいら、卓球なんてしたことないよ、ホントにね」
「……」
 その日の残りの時間は、ジョーに卓球のやり方を説明するだけで過ぎ去った……。


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