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 上級妖精の守衛もおらず、キマイラは1頭だった。体長5mはある巨大な三頭の怪物が、広間の中央にでんと寝そべっている。訪問者の接近を感知した山羊、獅子、恐竜の3対の目がかっと見開かれた。
《ヒト族朋也か……久しいな。もっとも、余にとっては3年など瞬く間に等しいが。エデンでの暮らしには慣れたか?》
「ああ、うん。おかげさまで」
 頭を掻きながら答える。朋也は今頃になって少し緊張してきた。アポも取らずに直接来ちゃったけど、大丈夫かな?
《して、今日は何用か? 余は世界を司る叡智の神獣、忙しい身であることはお主もわかっておろう》
「それが、その……ええっとぉ……」
 どうやって切り出せばいいんだろう? 正直、すごく言いにくい……。朋也は無計画のまま彼に面会しに来てしまったことをたちまち後悔した。正直に事実を打ち明ければ、ミオも朋也自身もまずい立場に追い込まれることはわかりきっていたのに……。
「ミ、ミオがここに来なかったかな? えっと、あのときパーティーにいたネコ族の子で、今は俺の奥さんなんだけど……」
《うむ……よく覚えておるぞ。何せ、叡智の神獣たる余を出し抜き、2つのアニムスを手に入れようと企てた第一級の危険人物なのだからな。フッフッ》
 キマイラの目は全然笑っていない……。朋也は自分がトラかライオンの前に差し出されたヒヨコになったような気分がしてきた。
《だが、今はお主がしっかり手綱を握っているものと思っていたぞ。いまさらなぜ余に謁見する必要があるのだ?》
(朋也ぁ~、直言はしないほうが身のためよぉ~)
 マーヤが朋也の耳のそばでこっそり耳打ちする。さすがに彼女はキマイラとの付き合いが長いだけによく解っている。ところが──
「実は──」
「ミオが今度はサファイアのアニムスを狙ってるんだよ! クルルもブローチを盗られちゃってすごく困ってるんだから!」
「あっ! キマイラにそんなこと言ったら──」
 朋也たちがあわててクルルの口を塞ごうとするも、時すでに遅しだった。
《……やはり……やはりニンゲンは信用の置けぬ種族だな。配下のネコ族の者を利用して、紅玉と碧玉のみならず蒼玉までものにしようと企むとは。モノスフィアとのリンクは切れたとはいえ、モンスターの災厄は止まらぬし、かの世界からの難民は未だ増え続ける一方。お主たちを許したのは過ちであったわ》
 なんか全然関係ない話まで持ち出して朋也に罪をなすり付ける始末だ……。キマイラって神獣のくせにすぐ疑心暗鬼になるし、性格ねじ曲がってるよな……。
「キ、キマイラ様ぁ! ちょっと待ってってばぁ!!」
「誤解だってば!!」
 2人して必死になだめようとしたが、聞く耳を持ってくれない。三重の咆哮が玉座の間にこだまする。もはや衝突は不可避だった。
《神に仇なす禍の元凶め。今度こそこの余が成敗してくれるわ!》
「クルルのバカ~~!」
「え!? どうしてクルルの所為なの!? クルルは正直に話しただけなのに!」


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