戻る






 神鯨レヴィアタンの最終形態──それは朋也がずっと捜し求めていたミオその人だった。手には部屋で見たレプリカとそっくりの、青白く光り輝く球体を手にしている。本物の蒼玉・サファイアのアニムスだ。
「まさかあんたがあたいをここまで追っ駆けてくるニャンて思わニャかったわ、朋也。捜さニャイでって言ったのに……」
 わけがわからず混乱する朋也に、彼女は冷ややかな視線を向けながら言った。
「ミ、ミオ!? おまえ、生きてたのか!? 神鯨が化けた偽者ってわけじゃないよな? てっきり鯨夢に堕ちたものと……」
「いいえ。その逆よ。あたいがレヴィアタンをハメたの。あたいに勝ったつもりで今鯨夢の底に沈んでいるのはあのデカブツの方。ま、蒼玉については徹底的に調べあげてたから。あたいの手にかかれば、クジラの1匹や2匹チョロイものよ♪」
 最初にタイクーン神殿で謁見したのはレヴィアタン本人のはずだから、途中どれかのメタモルフォーゼのタイミングでスイッチしたということか。よくわからないが、ミオの方がやっぱり神鯨より1枚上手だったわけだ。
 朋也としては、ミオはきっと無事だと信じつつも、鯨夢に陥った彼女を救出するのは望み薄かもしれないと半ばあきらめかけていただけに、再び彼女の顔を見ることができて心底ホッとした。だが、当のミオには夫との再会を喜ぶ様子は見られない。
「もっとも、相手は無を司る厄介ニャ神鯨だけに、キマイラと碧玉の方が攻略はずっと楽だったのは確かだけどね。ガキンチョの無限回復の力と、不定形神獣のダメージを異世界に飛ばすリンクの力を先に手に入れる必要があったし。誰か次に蒼玉を入手しようと試験に挑む者が現れるまで、ひょっとしたら何年も……いえ、何百年、何千年待たされるかもしれニャかった」
 ……てことは、ミオと蒼玉を追いかけてこの海底神殿にたどり着き、神鯨と戦わなかったら、もう2度とミオと会えなかったかもしれないのか?
「よりによって、あんたが次の挑戦者としてここへ来るとはね。まあ、もしあんただったら第5形態までクリアできるかもとは思ったし、さすがは朋也だわ、と言いたいとこだけど……」
 早々に鯨夢から解放されることになったというのに、なぜかミオの表情は不満げだった。心の中で不安を覚えつつ、朋也は自分に対して言い聞かせるように彼女に声をかけた。
「なんでもいいさ、おまえさえ無事でいてくれれば。さあ、地上に帰ろう。それと、みんなを戻してくれよ?」
「それはダメよ。サファイアの力を手にするための代償だから。あの3人も、神鯨も。そして──」
 そこでいったん目を伏せてから、朋也を凝視する。
「朋也……あんたも」
「なんだって!?」
 思わぬ台詞に、朋也は耳を疑った。
「だから、あんたにだけは来て欲しくニャかったのよ。おかげで、計画が狂っちゃったわ。あのときもそうだったけど……」
 ミオはやや非難がましい目つきで朋也をにらんだが、たいしたことではないというように切り替えた。
「まあいいわ、後で調整すれば。サファイアの力さえ手に入ればどうにでもニャる。もうすぐ……もうすぐ、存在するすべての宇宙を支配する力があたいのものにニャるのよ……」
 頬を紅潮させ、恍惚とした表情でうっとりと目を細める。その顔には、3年前に2つのアニムスを手にしたときの彼女と同じ狂気が宿っていた。
「……そんな理由で、クルルも、マーヤも、ニーナも、そして、俺の命も奪うつもりなのか?」
「心配しニャイで。あんただけは生き返らせてあげるから。すべてが片付いた後でね。フフ……」
 家出したミオが蒼玉を探し求めていると知ったときから、またこういう展開になるのではないかと朋也は危惧を抱いていた。一方で、彼女が同じ過ちを繰り返したりしないとも信じたかった。結局、その期待は裏切られてしまったことになるが……。
「ダメだ、ミオ……ほかのことならどんな頼みだって聞いてやる。奴隷にでもペットでもなってやる! けど、アニムスだけはおまえに渡せない!! ──って、これも前と同じやり取りだけど。第一、いまだって俺、実質おまえの奴隷兼ペットじゃんか(--;; これ以上わがままを言わないでくれよ!」
 そこでミオの朋也を見る目つきは険しさを増した。この前のように逡巡する様子もなく、彼女は反抗の意思を明確に示した。
「いやよっ! どうしてもサファイアのアニムスが欲しけりゃ、あたいから力ずくで奪うのね!! あたい、今度こそ絶対負けニャイんだから! だって……だって……あたいはあんたを愛してるんだもの!!」
 くそっ、説得失敗か……。
 こうして朋也は、愛するミオとアニムスをめぐって再び命がけの決闘を余儀なくされたのだった──


次ページへ
ページのトップへ戻る