異次元空間のような鯨夢の世界で、朋也はミオと対峙した。
なんてこった……また、世界の存亡を賭けてミオと戦う羽目になるなんて……。
不利な要素はいくつもあった。ミオはまだ解放はしていないものの、すでにサファイアを所有している。それだけでも戦闘力は大幅に上がっているはずだった。前回は碧玉と紅玉の2つだったが、何しろ蒼玉はすべてを司る《一なるアニムス》だ。
一方、朋也はパーティーメンバー3人が鯨夢の深層に囚われ、孤立無援の状態だ。第5形態までの神鯨との連戦で、相当に消耗してもいる。
「ニャインライブズ!!」
真っ青な光の中で、ミオが9人に分裂した。やっぱりそれで来たか……。
「あがいても無駄よ、朋也。あたい、あんたを苦しめたくニャイの。抵抗しニャイであっさり死んでちょうだい♥」
前回ミオは朋也以外のパーティーの女の子を標的にし(それもほとんど千里中心だった)、彼を攻撃するのを避けていたが、今回は何のためらいもなく命を取りにくる気だ。
「そういうわけにいくか! おまえがあきらめるまで、徹底的に抗ってやるぞ!」
ミオは大きくため息を吐いた。
「わかってニャイわね。あんたには勝ち目ニャンかニャイのに……。まあいいわ。身体に教えてあげニャイと思い知らニャイでしょうから。さっさと降参してよね。エレキャット!」
9人のミオが一斉に電撃を放ってくる。とっさに身を縮めたが、これはいきなりジ・エンドの気配──と思ったら、意外と耐えられた。
通常のエレキャットの9倍分のダメージを覚悟していたのだが、せいぜい2倍程度に感じた。分身1人1人はステータスがオリジナルより低くなること、朋也自身ネコ属性攻撃に対しMAXレベルの耐性がついていること、なんだかんだ言っても彼女が手加減したのが理由だろう。
朋也にあまりこたえた様子がないのを見て、ミオは口をへの字に曲げた。
そうはいってもきついのに変わりはない。朋也は次の攻撃が来る前にガードを固めようと考えた。属性への耐性をさらに2倍に高めるべく、一族の守護神獣バステッド=モーの加護を求める。
「神獣召喚、バステッド!!」
ところが、ミオはここで驚くべき手を行使してきた。
「リンク接続、95023861277番のブレーン宇宙へ!」
召喚者である朋也の背後に出現して加護を与えようとしていたネコ族の神が、まるで掃除機で吸われるみたいにミオの手にした蒼玉の中へと吸い込まれてしまった。
それは、朋也自身は遭遇したことのない謎の不定形神獣&$"#%"(%$()@::@`**[]▲のスキルだった。ダメージを飛ばすという言い方をしていたが、今は神獣バステッド本人を別の多宇宙に送り込んでしまったようだ。
「ま、彼女は入用だから、後でまた回収しニャイとね……」
朋也は唇を噛んだ。仕方ない、ダメージが蓄積しないうちに仕掛けるか。まずはこの間と同じようにセオリーに従い、1人ずつ分身を倒していこう。
「九生衝!!」
朋也にも使える攻撃力増強の補助魔法・フルオライトをかけたうえ、惜しまずネコ族スキルの究極奥義を発動する。ターゲットは一番左のミオだ。
うまいことクリティカルが入った。コピーされたミオは青い光のフレームとなって消滅する。分身とはいえ、良心が痛まないといえば嘘になってしまうが。やだな、後7人倒さなきゃいけないのか……。
と思っていたら、ミオがまたしても驚愕の技を行使してきた。
「無限再生!」
コピーミオが分解してできた青い光の粒子が再び集まり、繭のような光の固まりになる。朋也が見ているうちに、次第にその輪郭がはっきりしてきた。瞼を閉じて眠っているように見えるネコ耳の女性。最初は蝋人形のようだったが、見る見るうちに頬の血色が増してくる。その目がパッチリと開かれ、緑色の瞳が朋也を射抜くように見つめる。
「うげっ、そんなんありかよ!?」
朋也はげんなりしてうめいた。
「どう? あんたが絶対あたいに勝てニャイの、これでわかったでしょ? あたいと無限に殺り合うつもり? つきあってあげてもいいけど、さっさと白旗を振った方が賢いと思わニャイ?」
9人のミオが勝ち誇ったように高らかに笑い声をあげる。
ミオの宣言したとおり、さすがにこれでは勝ち目なんて……。
とうとう朋也が降参しかけたとき、第三者が介入してきた。朋也の頭の中で声が響く。
《聞こえるか、朋也。余は叡智の神獣・エメラルドのキマイラだ》
「キマイラ!?」
1、2週間眠りに就くとか言ってたくせに。やっぱり朋也のことが信用しきれず監視していたのだろう。マーヤも連絡を取り合い指令を受けていたというが、さすが時空を操る叡智の神獣だけあって、鯨夢の中へも思念を送り届けることができるみたいだ。
《いまや世界の存亡はお主の双肩にかかっている。鯨夢に取り込まれたお主を直接支援することはできぬが、智恵を授けてやろう。お主は2つのアニムスの封印を解放した。宝玉そのものは消滅したが、エメラルドとルビーの力はすでにお主に宿っているのだ。その力を活かせ。余は神鯨とコンタクトを試みる。それまでなんとか粘るのだ。よいな?》
「わかった。やってみるよ。ありがとう、キマイラ!」
世界の法則を司るアニムスの力が自分に備わっていると言われても、いまひとつ実感が沸かないのだが、自分の内奥に向けて意識を集中してみる。
あのとき、朋也がミオからアニムスを奪取しようとした拍子に、2つのアニムスは床に落下して粉々に飛び散った。そして、2つの世界を救って欲しい、家族や仲間たち、誰よりミオとの幸せな日々を壊さないで欲しいという、朋也の心の奥底の願いをアニムスは聞き入れた。
朋也は再び祈った。いま朋也が毎日噛みしめている幸福、ミオと一緒に暮らすささやかな日常を取り戻したい、その力が欲しい──
「無駄ニャ足掻きはやめニャさいって言ってるでしょ!?」
キマイラとの念話は聞こえていないはずだが、何か異変を察知したのだろう。9人のミオが一斉に飛びかかってくる。
「ナインライブズ!!」
緑と赤の光が朋也を包みこんだ。次の瞬間、彼は9人に分裂していた。あのときミオが使ったのと同じ、アニムスの力があって初めて引き出せる、ネコ族の奥義中の究極奥義だった。
「とりあえずこれで9対9だな」
驚きの表情を隠せずにいるミオに対し、ニヤリとしてみせる。
9人のミオと9人の朋也がにらみ合う。
「往生際が悪いわよ! 魔力じゃあたいにかニャイっこニャイくせに! アメジスト×9!!」
ミオが全員で全体攻撃魔法を唱える。トータルダメージでは確かにジェネシスも及ばないだろう。だが、魔法が発動するよりわずかに早く、9人の朋也がそれぞれのターゲットのミオの懐に飛び込んだ。
「物理攻撃は俺の方が上手だろ? 九生衝×9!!」
回復したばかりの9人目はもちろん、残りも4人がダウンする。どうやらコピーミオは最大HPにも多少のバラツキがあるようだ。
5人のミオが繭の中で再生状態に入り、コーナーに残っているのは4人だけとなった。しかも、本体以外の3人はKO寸前だ。
「無限再生!!」
「しまった!」
朋也が瀕死のミオに物理攻撃を食らわせるのを躊躇している間に、HPを回復させられてしまう。
ただ、ミオは繭の中の5人ではなく、表に出ている3人の回復を優先させた。どのみち、蛹状態のときは物理・魔法ともノーダメージの絶対防御バリアが効いているため、攻撃するだけ無駄だったが。
「リンク接続、95023861277番のブレーン宇宙へ! バステッド!!」
ミオはいったん放り込んだリンク先の多宇宙から神獣バステッドを取り出した。朋也が用いた守備固めではなく、攻撃型の召喚魔法だ。
「ぐっ!」
鯨夢の中で紫の雷光が激しくスパークする。ネコ属性耐性が付いているとはいえ、もともと魔力が高いうえに蒼玉によりパワーアップされたミオの放つ神獣召喚のダメージは半端ない。9人の朋也のうち4人は赤と緑のフレームに分解してしまった。しかも、残りの5人のうち3人が睡眠の状態異常にかかってしまう。
4対5。再生が済めば9対5で再び圧倒的不利に立たされてしまうが。
術者が同時に喚び出せないだけで、神獣の召喚権は朋也にもあるため、彼はダメージ軽減のために再度バステッドを喚び出そうとした。
「バステッド!!」
「何度やっても無駄よ! リンク接続、4993501124328番のブレーン宇宙へ!」
さっきと同じように、登場した途端バステッドはサファイアの中に吸い込まれてしまう。駄目か……。どうやらサファイアの特殊能力はコストもかからないらしい。朋也としては、一か八かで連続して行使できない可能性に賭けたのだが。こんなの反則だよな(--;;
「朋也、ニャかニャか楽しませてくれたけど、これでもうジ・エンドよ。あたいが復活させてあげるから、今は安心してお眠りニャさい。リンク接続、4993501124328番のブレーン宇宙へ! バステッド!!」
生き残った5人の朋也もHPは半分に満たない。もう一度召喚魔法を食らったら確実にアウトだ。
かわいそうに、バステッドも何度も喚び出されたりしまわれたり、一族の神なのにとことんぞんざいな扱いを受けてるよな……そんなことを思いながら、彼は観念して目をつぶった。
ところが、姿を現したネコ族の守護神獣は、像が揺らいだかと思うと、次の瞬間かき消すようにいなくなった。
《多宇宙#A84Wb^;t55Eebth23.9/Yghxxxxx3dfr4¥にリンク接続!》
宣言したのはエメラルドの神獣キマイラだった。そもそもモノスフィアとメタスフィアをゲートでつないだのもキマイラだし、超空間操作は彼の十八番だ。
《蒼玉の守護神獣&$"#%"(%$()@::@`**[]▲は余の設けたアニムスの塔内の虚数空間でしか存在できない。余は&$"#%"(%$()@::@`**[]▲とサファイアの力の一部を共有しているのだ》
「その声はキマイラね……やっぱり朋也を顎で使って、裏で糸を引いてたってわけ……。碧玉を失った死に損ニャイのくせに!」
ミオはすぐに事情を察したとみえ、歯ぎしりしながらうなった。キマイラは朋也に説明を続けた。
《朋也よ、よくぞ持ちこたえた。神鯨とのコンタクトには成功した。彼が鯨夢の底から浮上するにはまだ時間がかかるが、すでに鯨夢は綻び始めている。お主たちはまもなく現実世界に復帰するであろう。余が介入できるのはサファイアの力の一部について制御を取り戻すところまでだが、お主の協力者たちも支援が可能になったはずだ》
どこからともなく澄んだ美しい歌声が聞こえてきた。これは……ポートグレイで聴いたのと同じ人魚の歌……歌声の主はニーナだ。
4人のミオの分身は目がとろんとし始め、その場でぐったりと横たわってしまう。
「ちょっとあんたたち、起きニャさい!!」
本体のミオが揺すったり蹴っ飛ばしたりしても分身たちは一向に目を覚まさない。洋上のモンスター相手にもイルカ族のスキル子守唄を使ったけど、その強化版というところか。
と思ったら、なんとミオの分身たちはぐにゃりと変形し始めた。ミオ本体の足元に転がっていたのは、イカの足、細長い魚、茶色い藻屑の固まりだ……。これは神鯨のメタモルフォーゼ!?
《イルカ族の者は神鯨の遣いとしてサファイアの霊力の一部を分譲されているのだ》
続いて、朋也とその4人の分身を5色の光の粒子が取り巻いた。マーヤの使う全体回復スキル・セラピーのようだが、もっとレベルが高い気がする。おかげで、睡眠の状態異常も体力も完全に回復した。
《もしもぉし、聞こえてるぅ、朋也ぁ? とりあえず回復だけしといてあげるから、後ヨロシクねぇ~♪ ちゃんと奥さんの手綱を握っておかないと駄目よぉ~》
本人の声の後で、上司であるキマイラが解説した。
《本人には伝えていなかったが、妖精#9109557は潜在的なポテンシャルの高い将来の妖精長候補として特務に抜擢したのだ。SSクラスに昇格すれば余と同じ空間操作も一部行使できるが、今は独自に能力を開花させたのだろう。同行させて正解だったな》
ステータスが回復され、これでイーブンにまで持ち込めた。もっとも、蒼玉の特殊能力の中でも一番厄介なのは無限回復だが……。
そのとき、ミオの後ろに並んでいた5体分の繭が中身もろとも光の粒子となって分解し始めた。ミオ自身も何が起きているのかわからず呆然としている。
《朋也さん……私はあなたの知っているクルルの分身……慈愛を司るサファイアの守護神獣クルル……エデンの危機に際して覚醒したもう1人のクルル……》
心に響いてくる声はクルルにそっくりだが、話し方がまるで違う。それにしても、まさかクルルの別人格が神獣だったとは。ミオもそのことに気づいていたのか……。
《無限再生の力は本来あるべきところに還します。私はクルルの身体から離れ、また別の命に転生します。お別れの前に、あなたに伝えておきたいことがあるの。彼女は〝悪〟ではないわ。あなたにも判っているはずね。彼女の深すぎる愛を受け止められるのはあなただけよ……。それともう1つ、この世界であなたの愛を一身に受けるのは彼女。けれど、こことはまた別の世界では、あなたはクルルと結ばれる運命にあります。どうかこの世界でも、あの子のお友達でいてあげてくださいね。あの子はとてもいい子だから──》
慈愛の神獣クルルの言葉はそこで途切れた。あまりに多くの真実を聞かされ、朋也は頭がクラクラしてきた。
ともあれ、レヴィアタンとニーナ、キマイラとマーヤ、そして2人のクルルに助けられ、世界をひっくり返そうと目論むミオの計画を後少しで阻止できるところまで来た。
いや、彼女は決して宇宙を滅ぼさんと企てる極悪人なんかじゃない……。もう1人のクルルに言われたことを噛みしめながら、朋也はミオをまっすぐに見つめた。
ミオもムスッとしてにらみ返してきた。その頬に一筋の涙がこぼれる。あのときと同じように……。
「……どうして……どうして邪魔するの? あたいはこんニャにあんたのことが好きニャのに……愛してるのに!!」
殺しにかかってきながら言う台詞じゃないよなあと思いつつ、朋也は身構えた。
エレキャットを百倍に強化したようなすさまじい電撃が降り注ぐ。この前よりダメージがきつい気がする。気絶しないでいるのが精一杯だ。2人の愛がより深まった所為といえるのかもしれないが……。
「サファイアは《一なるアニムス》、特殊能力も無限にバリエーションが存在するのよ。たった3つばかり封じたからっていい気にニャらニャイで! あたいは絶対負けニャイ!!」
2人の周囲が不透明な青白い球体で覆われる。キマイラの声も聞こえない。外とのやり取りは完全に遮断された。まるでサファイアの宝玉の中に閉じ込められたかのようだ。そこは他の世界と隔絶された1つの宇宙だった。
ミオは朋也に向かって猛然と飛びかってきた。さながらキャットファイターだ。というより、やっぱりネコそのものというべきか。
朋也はギリギリのところで彼女の攻撃をかわして逃げ回ったが、球形のリングの中では逃げ場がない。彼女の爪がかすめるたびに、全身の至る所に赤い血の筋が走る。
ここで屈服したらみんなの支援もパーになってしまう。朋也は仕方なく応戦に転じた。顔は傷つけたくないので金属爪装備を外したうえ、なるべく距離を取ってエレキャットをたたきこみつつ、懐に入られたらネコパンチとネコキックの肉弾戦で応じるスタイルに。
「朋也! あんた、あたいがいない間にあの2人をうちに連れ込んだでしょ!?」
「誤解だってば! そんなことしてないよ、俺(--;;」
「嘘おっしゃい! さっきチビスケが言ってたじゃニャイの!」
攻防を繰り広げながら、お互いに言い合いになる。マーヤが余計なこと言っちゃったからな(--;; アニムスをめぐる死闘のはずだったのに、さながら居間で手当たり次第にものを投げつける妻と、座布団で防戦する夫との夫婦喧嘩の図だ。あるいは、春の季節の雌ネコと雄ネコの恋の駆け引きにも通じるものがあったかもしれない。
「ビスタからポートグレイまでエメラルド号で1日がかりの工程だったし、2人ともサイドカーに座りっぱなしだったから、補給のついでにちょっと休んでもらおうとしただけだってば! 実際、2人にはシエナで休憩してもらって、うちには一歩も入れてないんだぞ!」
「未遂でも浮気は浮気ニャ!」
信用ないなあと思いつつ、かくいう自分も最近ミオが浮気していないか疑心暗鬼になっていたことを思い出し、朋也は苦笑した。
「俺は誓って浮気なんかしないぞ! ミオにぞっこんだからな! そういうおまえはどうなんだ? 俺だって、おまえが勝手に外泊してるとき、いつも気がかりだったんだから! おまえ、サファイアのアニムスを手に入れたら、宇宙中からネコ族の美男をかき集めてハーレムでも作るつもりじゃないのか!?」
朋也が反撃すると、ミオは目を逸らしながらうろたえ気味に答えた。
「そ、そんニャわけ……」
「じゃあ、俺の気持ちが少しはわかったか?」
「うう……あんた、あたいのペット兼奴隷にニャるって言ったじゃニャイ!」
「ああ、そうとも。アニムスを返せばって条件付でな。さあ、サファイアのアニムスを渡すんだ」
「絶対に嫌っ!! 欲しかったら、あたいを殺して奪いニャさいよ!」
ミオは半べそを掻きながらヒステリー気味に言った。前の時もそうだったけど、神獣さえ出し抜くほどの天才的な頭脳の持ち主なのに、ときどき子供……というか、仔ネコ時代のわがままニャンコに逆戻りするんだよな。
「よし。じゃあ、そうさせてもらう」
朋也にはわかっていた。彼女の残りHPが後わずかなことを。
最後のラッシュを浴びせる。ミオも必死に応戦してくるが、もう押し返す力は残されていなかった。特大のエレキャットを1発浴びた彼女は、その場にペタンとへたり込んだ。
ミオは朋也を見上げながら、情けない泣き笑いのような表情を浮かべ、ささやくように言った。細めた目の縁から涙がこぼれ落ちる。
「あたいを殺してサファイアの力を手に入れたら、どこかの宇宙にいる別のあたいをきっと見つけて幸せにしてあげてね……」
朋也に対してもそうするつもりでいたのだろうか。それとも、野望を抱くことのない別の自分を見つけて欲しいということか……。
「何色だろうとアニムスなんか要らないよ。俺が幸せにするのは、どこの宇宙でもない、今目の前にいるおまえだ。さあ、とどめの一撃をお見舞いしてやる。観念しろ」
思わず身をすくめたミオを引き寄せると、力いっぱい抱きしめ、貪るように唇を求める。
ミオは抵抗もせず、朋也のなすがままに身を預けた。
その手から、サファイアのアニムスが転がり落ちた。宝玉そのものは割れなかったものの、2人を外界から隔てていた蒼い球殻が粉々になって消滅する。
こうして、朋也のおかげで宇宙は再び危機を脱したのだった──