元の世界に帰還した朋也と千里の2人は、高校卒業もそこそこに籍を入れ、新しい生活を始めた。千里は目下、大学に通いながら作家を目指して猛勉強中だ。もっとも、すでに新人賞に応募した作品が見事賞を獲り、再来月には処女作が刊行されて晴れてデビューを果たすことになっている。朋也は夜勤の警備の仕事に就き、そんな彼女を支えている。
2人にとって何よりうれしかったのは、神獣キマイラのはからいにより、エデンとの間で通信が可能になったことだ。自宅のポストが、異世界同士をつなぐマイクロゲートってわけ。2人はミオとジュディと毎月のように手紙をやりとりし、お互いの近況を報告し合っている。
そうしてあの冒険の日々から3年の月日が流れ、せわしなくも充実した時間をすごしていたある日のこと──
「どれ、ミオからの手紙は来てるかな? 5つ子たちの写真、また送ってくれないかなあ。あの子たちももう2歳になるんだっけ。一番かわいい盛りだよな」
朋也がニコニコしながら郵便受けを開いてみると、はたして手紙が届いていた。
喜色満面でいそいそと開封し、手紙を取り出して広げたところで、手が止まる。朋也は眉をひそめてその手紙をじっとのぞき込んだ。
「あれ? 2人の筆跡じゃないぞ? それにしても下手くそだな、この字。ジュディのほうがまだ達筆に見えるくらいだ……」
読み進めるにつれ、朋也は驚愕の表情に変わった。
「ち、ち、千里!! た、たた、た、大変だ!!」
彼はあわてふためき、転びつまろびつしながら自宅に駆け戻ろうとした。
「どうしたのよ? そんな大きな声出して……」
玄関のドアが開いて、呼ばれた千里本人が表に出てきた。かなり不機嫌そうな声だ。締切間近で夕べも寝不足だったのだろう。
「ミオとジュディがトラブルに巻き込まれたらしい!」
「なんですって!?」
千里が隣にやってきたので、2人してもう一度よく文面を確かめる。
〝前略
朋也の兄貴、ジュディの母ちゃん。
どうか心して聞いてくれ。
実は、うちの女房と兄貴のネコが、イヌ族とネコ族の守護神獣に処罰されることになっちまったんだ!
このままじゃ2人の命が危ねえ!!
義母ちゃんたちの助力が要る。
幸い、キマイラとフェニックスが、ニンゲンの通れるゲートをもう一度だけ開いてくれることになった。
指定した日時に、前に使ったゲートの場所へ来てほしい。
詳しいことは来てから話す。
頼む…… どうか俺の愛するハニーを……チビどもの大切なママの命を救ってくれ!!
──ゲド〟
読み終えた2人は、声もなく顔を見合わせた。