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 朋也、千里、ゲドの3人は、ジュディとミオを救出する旅に出発した。ジュディ夫婦の5人の子供たちとブブ、ジョーに見送られながら、自宅の前からサファイア号を発進させる。目的地はイゾルデの塔だ。
 2人の自宅は町外れなので、まず南側にある門までダリの街を横断しなければならない。街中を自転車並の速度で徐行しながら進む。エデンに3台しかない珍しい自走車だが、騒動になることもない。街の有名人であるジュディ夫婦が遠征に行く際などに使用しているため、街に住むイヌ族の住人たちももう見慣れたらしい。
 途中、左手に教会らしき建物が見えてくる。前に来ていったん停車すると、ゲドが自慢げに説明した。
「俺たち、この教会で式を挙げたんだぞ。ハニーのウェディングドレス姿はそりゃあかわいかったぜ♥」
「ミオちゃんから写真を手紙に同封して見せてもらったわよ♪ ほんとにきれいだったわ、彼女……」
 千里が目を細めて懐かしむように言った。その写真は額に入れてベッドのそばに飾ってある。ミオと2人で5つ子を抱えてはにかむように微笑んでいる彼女の写真とともに、一番のお気に入りだ。もちろん、送ってもらったジュディたちの写真はすべて大切にアルバムにしまってあるが。
「ねえ、千里。ジュディを助け出したら、この教会でもう一度結婚式のシーンを再現してもらわないか?」
「いいわね。どうせなら私たちも合同でやらせてもらわない? 向こうじゃお金も暇もなくて式を挙げてないし」
「う、うん……」
 まさか彼女の方から提案してくれるとは思わなかったな。サイドカー越しでなければ手を握りたいところだ……。
 さらに進むと、反対側に広い公園が見えてきた。入口には鳥居に似た門がある。
「あれはウー神の社だ。シエナにも分社があるぜ」
 そちらは以前の冒険でシエナの街を訪れた際に朋也たちも見た覚えがある。朋也はゲドに声をかけた。
「ちょっと停めてもらっていいか?」
 サファイア号を公園そばの歩道の隣に停車し、3人して公園の中に入る。はたして、その奥にはウー神の彫像が置かれていた。
「これがイヌ族の守護神、アヌビス=ウーか……」
 長い鼻吻越しに参拝者をいかめしく見下ろす像を見て、いかにも融通の利かなそうな顔だと朋也は思った。交渉も骨が折れそうだ。
 3人はダリの街を出た。砂漠に入ってからはスピードを上げる。ちょうど中間辺りに位置するシエナの街を西に見ながら快速に飛ばす。しばらく北へ進むと、景色が砂漠以上に殺風景な荒涼とした荒原に移り変わる。すでに前方にはそそり立つ塔の姿が見えていた。
 1時間後、一行は2人が幽閉されているイゾルデの塔に到着した。


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