イゾルデの塔の敷地に入った一行は、そこであるものを見つけた。2人乗用のエメラルド号だ。
「神獣の呼び出しを受けたハニーとミオの姉貴が、こいつで出かけていったんだ」
1週間前にここに停めてから、2人が戻った形跡はない。まだ塔の中にいるのは確実だ。
正面に来た朋也は100m以上もあるイゾルデの塔の尖端を見上げた。じっと見ているだけで首が痛くなってくる。シエナを過ぎた辺りからすでに視界には入っていたが。
塔自体はあのときから変わったようには見えない。天空を突き刺すようにそびえ立つ尖塔をながめながら、朋也はつぶやいた。
「まさかもう1度ここに訪れることがあるとは思わなかったなあ……」
「その昔、八百万の神獣たちが神鳥殺害の罪を犯したヒト族を幽閉する目的で建てた塔なんだよな。今でも街じゃ幽霊が出るって噂が絶えないぜ。おまえら、以前もここへ訪れてたのか?」
ゲドにとっては初耳の情報だったか。千里が彼に説明する。
「ええ、そうよ。私たちはここで神鳥を封印したイヴ本人と神獣ペルソナに出会い、キマイラと戦うための力を借りたの。それが原因で、ジュディたちが嫌疑をかけられてしまったんだけど……」
あれから3年、イゾルデの塔は誰も住人のいない無人の塔になったはず。ただし、生きた住人は、だが。あのときはエデンに置き去りにされたヒト族の男たちの亡霊がウジャウジャ現れて、朋也たち2人の行く手を阻んだ。彼らはまだ残っているのだろうか?
「さあ、入った入った!」
朋也が塔を見上げたままじっとして動かないため、業を煮やした千里が背中から押した。
「ゲ、ゲド、先に入ってくれ!」
「おい、背中押すんじゃねえ! 俺様だって幽霊は苦手なんだよ~(T_T)」
そのままゲドを先頭に電車ごっこの状態で3人は塔の入口の大きな扉をくぐり抜けた。
イゾルデの塔の1階は全体がつながった天井の高い大きなホールになっている。内部も3年前に訪れた時と変化はない。
3人は薄暗いホールの中央に向かって歩いていった。真ん中の女性1人は堂々と、両脇の男性2名はおどおどと。8本の柱に囲まれた魔方陣のような円に近づいたとき、どこからともなく声が聞こえてきた。
《……千里……朋也……》
「うわっ、さっそく出やがった! ニンゲンの女の幽霊だ!」
ゲドは腰を抜かさんばかりに驚いて叫んだが、2人のヒト族の反応は違った。その女性の声に聞き覚えがあったからだ。ただ、ゲドとは別の意味で驚愕を禁じえなかった。なぜなら、それは絶対聞くはずのない声だったからだ。
目の前に本人が出現する。向こうが透けて見えるのは気の所為というわけでもなさそうだ。朋也は思わず彼女の名を口にした。
「イヴ!?」