「どうして……!? あなた、あのときフェニックスの不死の呪いから解放されたはず……」
朋也と同じく驚きを禁じ得ず、千里が両手を口に当てながら尋ねる。
《ええ。私の肉体はとうに朽ちたけど、どうやら不死でいた時間が長すぎたせいか、魂が浄化されるまで少々時間がかかるみたい。フフ……》
半透明のイヴは自嘲とも取れる笑みを浮かべてから続けた。
《2人とも、見るはずのないものを見てしまったという顔をしてるけど、あなたたちこそ今ここにいるはずのない存在よね? モノスフィアに帰還したはずではなかったの? まさか、あなたたちも死んで魂だけになってこの塔に戻ってきた、というわけじゃないんでしょ? なぜ再びエデンの地を踏んだの?》
「実はかくかくしかじかで──」
朋也はゲドに呼ばれた経緯を彼女に話した。
《なるほど……くしくもあのときと似た状況ね。キマイラではなく種族神獣にあなたの家族を人質に取られてしまった、と……。そういえば、数日前だったかしら、イヌ族とネコ族の女性の2人連れが上階に登っていくところを見かけたわ。そのときは、無謀なモンスターハンターの2人組だろうとしか気に留めなかったけど、よく思い返したらあなたたちのパーティーにいた娘たちに似ていたわね……》
それから、イヴは千里の全身をくまなく調べるように視線を這わせてから言った。
《千里……やっぱりあなた、まだ失った魔力が戻っていないようね。あなたの魔力を紅玉に捧げたのは私だけど……。エデンにやってきただけで勘を取り戻したのはたいしたものだけど……あなた、いまのまま神獣2頭と戦って、勝つ自信はあって?》
イヴの指摘したとおり、今の彼女が行使できるのは3属性魔法のレベルⅠと回復魔法クリスタルのみで、威力も3年前には遠く及ばない。もっとも、レベルⅠだって使えるようになったこと自体、驚くべきことではあったが。朋也は未だにマッチの火ほどのルビーも使えやしない。
千里本人もその辺はわかっていたようで、がっくりと肩を落としたように答えた。
「そうね……神獣相手にレベルⅠの魔法だけだとさすがにきついのは認めざるをえないわ……。けれど、私はジュディとミオちゃんを助けなくちゃいけない。この先へ進むのにためらいはないわ! そのためにこそ、再びこのエデンに舞い戻ってきたんだもの!」
しばしの沈黙の後、イヴは険しい顔になってかつての弟子である千里をまっすぐ見据えながら言った。
《そう……でも、覚悟だけで結果はついてこないわ。この先に進む意味があるかどうか、私が今のあなたの実力を測ってあげます。あのときと同じように、全力で挑んでいらっしゃい!》