「やったな、千里! ジェネシスもまた使えるようになったじゃないか!」
朋也が千里にねぎらいの言葉をかけると、彼女は出し切った充実感にあふれた笑みを浮かべて言った。
「まあ、全盛期と同じとまではいかないけど、あのころの感覚はだいぶ戻ったと思うわ」
それから、彼女は改めてイヴに向き直った。
「ありがとう、イヴ。あなたのおかげで、神獣に立ち向かう自信がついたわ」
《さすがは私の一番弟子ね。ジェネシスの手札があれば、きっと彼らとの交渉も有利に運べるでしょう》
3人は塔内に2ヵ所あるHP/MPを全快できるスポットに案内してもらい、ホッと一息吐いた。
「それにしても、俺たちゃ出る幕もなかったな。すっかり義母ちゃん頼みになっちまった」
「大丈夫よ、ゲド。物理攻撃が有効な相手なら、あなたの真・牙狼だって十分強力な手札になるわ」
いいところを見せられずしょんぼりしていたゲドだったが、千里に慰められていつものにやけた顔に戻る。
《そうそう、朋也、魔法を使えないあなたにも贈り物を用意したわ。エデンを離れたせいで切れたペルソナとの契約をもう一度結び直させてあげましょう》
頭上にまばゆい光球が出現し、その中に裸身の女性の姿が浮かび上がる。3年前にもイヴの手引で契約を結んだヒト族の守護神獣、アテナ=ペルソナだ。
神鳥が復活してアテナ神も制約から解かれたはずだが、一族最後の個体となってしまったイヴの罪業に寄り添い、彼女の魂とともに自らこの地に留まることを選んだのだろう。
「ありがとう、イヴ。俺たちに手を貸してくれて」
かつては私怨に駆られて千里を犠牲にしようとさえした因縁のある相手だったが、朋也は素直に頭を下げた。
イヴは首を横に振りながら、少し寂しげな表情を浮かべて答えた。
《私はまだ自分の犯した罪を償いきってはいないわ。今日は、あなたたちへの大きな借りのほんの一部を返しただけ……。さあ、お行きなさい。あなたの愛する者の待つ場所へ》
「イヴ……いろいろあったけど、あなたはやっぱり私の魔法の最高の師匠よ!」
3人は彼女に手を振って別れを告げると、2階へと続く階段に向かった。
一度後ろを振り返ると、彼女の姿はもうそこにはなかった。
ゲドがこっそり朋也に耳打ちする。
「にしても、義母ちゃん、女房と同じく高所もオバケもちっとも恐くねえんだな……。やっぱり血筋か?」
「女の子ってのは大体、怖がってるように見えてオバケや怪奇現象の類には免疫があるもんさ」
朋也は苦笑しながら答えた。千里の耳にも入っていたのか、彼女は片目を吊り上げ腕組みしながら2人をせっついた。
「ほら、ボヤッとしてないで上に上がるわよ! さっさとジュディとミオちゃんを取り戻しに行かなきゃ!」