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 その日、5つ子たちの待つダリの家へ戻った一行は、ブブとジョー、クルルもまじえて盛大なパーティーを開いた。
 この3年の間お互いの身に起きた出来事について、積もる話は山ほどあったはずなのに……朋也も、千里も、ミオも、ジュディも、口数は少なかった。
 こどもたちが元気いっぱいにはしゃぎ、笑う姿を見ているだけで、ただ幸せな時間が過ぎていく。
 朋也は思った。この日が永遠に終わらなければいいのに、と……。

「3人とも、全力で戦ったうえに、あのパワフルな5つ子たちの相手までしたから、すっかり疲れ果ててすぐ寝ちゃったな。結局、おまえたちの芝居だって途中で気づいたのは俺だけか……。まさか千里まで引っかかるとは思わなかったよ」
 窓辺で外の景色をじっと見つめるミオの背中に向かって、朋也は話しかけた。
 いま2人がいるのはジュディの自宅からそう離れていないダリ市街のホテルだ。今夜は家は定員オーバーで、2人が追い出される形になったのだった。進んで外泊を申し出たのはミオだが。
(チッ、しくじったわ……ドサクサまぎれに性悪女には戦死してもらって、失意の朋也とあたいが結ばれてめでたく再婚♥って手はずだったのに……。こうニャッたら、千里に邪魔されニャイこの機会に唇だけでも奪ってやるニャ~)
 ミオは決意も新たに朋也の方に向き直った。彼の目をまっすぐ見つめながら口を開く。
「……こうやって2人きりで過ごすのも久しぶりね……」
「そうだな……。せっかく再会できたんだから、俺ももう少し2人で話したかったんだ。さっきまではこどもたちの相手でかかりきりだったしな、ハハ」
 朋也は完全にリラックスモードで、ミオの思惑には気づいていない。
「あたいと2人だけにニャッたのは、本当にそれだけの理由?」
 ミオが1歩前ににじり寄った。続いてもう1歩。2歩──。
 窓に寄る前に彼女が照明を落としたため、部屋は薄暗い。その中で、ミオの目がサバンナの夜の猛獣のように爛々と輝いている。内に秘めた彼女の情熱を表すように。
「そ、それだけだぞ、もちろん」
 朋也はゴクリと生唾を呑み込んだ。しまった、油断してた……3年前も彼女に告白されて迫られたんだったっけ(--;;
「千里はいま、ぐっすりお寝んねしてるわ。バカイヌと会えて幸せいっぱいの夢を見ながらね……」
 2人の距離はもう1メートルもない。彼女の吐息を顔のそばに感じる。朋也はじりじりと後退したが、ついにベッドまで追い詰められてしまった。
「……あたいにも夢を見させてよ……今晩一夜限りでいいの。千里には絶対内緒にするから。ねえ……いいでしょ?」
 ミオは朋也を押し倒し、上にのしかかってきた。それでもなお、意思の力を振り絞って必死に抵抗を試みる。
「ダ、ダメだったら! おまえは俺にとっては家族だもの。そんなふうには見れないよ(--;; それに、俺には千里がいるし……」
(ムゥ、しぶといわね……。でも、あんたの弱点は知ってんのよ。それっ、悩殺ゴロゴロ攻撃ニャ~!)
「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ♥」
 ミオは朋也の胸に頭を押し付けながら、喉を機関銃のような勢いで鳴らしてきた。いよいよ絶体絶命のピンチだ──
 そのとき、ポケットにしまっていたものに手が触れた。
(くっ……いかん! 彼女が前駆形態のネコの姿のままだったら、思いっきりブラッシングしてなでまわしてゴロゴロニャンニャンしたい。けど……俺もおまえの弱点はわかってるんだ!)
 薄明かりの中で、ネコじゃらしを取り出して左に振る。それはミオ愛用の品で、今は家のジェシカやジョルジュたちに引き継がれたものだった。
「ウニャニャ!」
 ミオがとっさに飛びつく。キャッチされる寸前、今度は右に振る。成熟形態になってリーチが伸びた分、彼女の動きに合わせて動かすのはかなり至難の技だったが。
 ひとしきり往復させてから、さらにもう1つのアイテム、高純度マタタビを取り出す。
「許せ、ミオ!」
 エデンに来て以来朋也自身も感じるようになった甘い香りが部屋中に漂う。
「フニャアアァ……」
 ミオの目がとろんとしたかと思うと、その場にふにゃりと倒れこんでしまう。もともとモノスフィアでもマタタビがよく効く子だったのだが、効果覿面だ。
 朋也はミオをそっと抱きかかえると、ベッドに移した。彼女は安らかな寝息を立ててぐっすり眠り込んだ。
「……ムニャ……朋也……」
 寝言を口にしたが、起きる気配はない。朋也はやさしく彼女の髪をなでながら寝顔を見つめ続けた。いとしさが胸にこみ上げ、涙で視界がかすんでくる。
「ミオ……千里への愛とおまえへの愛は違うけど……俺は世界中のだれよりもおまえを愛してるよ。嘘じゃない。今夜はこのままずっとおまえのそばにいてやるからな……」
 窓から柔らかな月の光が差し込み、種族の壁を越えて寄り沿う2人の姿を照らし出した。


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