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 翌日、朋也と千里はモノスフィアへ帰還することになった。本当はもう何日かゆっくりしていきたかったが、仕事も入っているし、ジェシカやジェミニたちも待たせている。身を引き裂かれる思いだったが、やはり帰らなければならない。
 5つ子たちを再びクルルに預け、クレメインの森のゲートまでミオ、ジュディ、ゲドの3人に送ってもらう。3年前は、これで今生の別れになるのだから、直前に決心が鈍ってはいけないと、ミオとジュディの2人にゲートまで同行させず、あえてビスタの街でさよならを告げた。そのときに比べれば、今回はかなり気が楽だ。
 それでも、ゲートの前で千里と向かい合ったジュディの目からは涙が滂沱とあふれた。
「ご主人サマ……」
 そんな彼女を、千里は笑顔で慰めようとした。
「もう、ジュディったら本当に泣き虫さんなんだから」
「そんなに泣くことないだろ? キマイラとフェニックスのおかげで、3年に1度はゲートを開いて会わせてもらえることになったんだからさ」
 朋也も付け加える。たとえ3年越しであっても、再会できるのとできないのとでは雲泥の差だ。
「ったく……あたいのほうがよっぽど泣きたいわよ! 全力でモーションかけたのに、あんニャふうにあしらわれるニャンて……」
 ミオは朝から1人で二日酔いにでもなったかのように機嫌が悪かった。夕べの一件のことを考えれば、仕方ないかもしれないが……。
 彼女の台詞にピンときたのか、千里がギロリと朋也をにらんだ。
「と~も~や~……もしかして、夕べ私が見てなかったからって、ミオちゃんと何かあったんじゃないでしょうね!?」
 しめたとばかり、ミオが千里の腕をつかんで涙ながらに訴えた。
「聞いてよ、千里! 朋也ったらひどいのよ! 一服盛られて、あたいが意識を失くしてる間にあんニャことやそんニャことやこんニャことまで……」
「こら、ミオ! でたらめを言うんじゃない!!」
 朋也は必死になって無実を唱えた。だが、千里の目は吊り上ったままだ。
「し、信じてくれ、千里! 俺はミオに添い寝してやっただけで、おまえに対してやましいことは何ひとつ──」
「問答無用! いくら相手がミオちゃんでも、浮気は許さないわよっ!! ジェネシスッ!!」
 千里はいきなり最強魔法をぶっ放してきた。クレメインの森に轟音がとどろき、赤・青・緑の光が乱舞する。まあ、実際にはトリニティくらいのレベルにセーブされていたが、きついのには変わりない。
「死んだ……」
 至近距離でまともに受けた朋也は、モノスフィアなら瀕死の重体のありさまだ。正直に添い寝と言ってしまったのは余計だったかもしれない……。
(ちっ、性悪女め、朋也に当てるふりしてあたいを狙いやがったニャ(--;;)
「ひでえ、俺たちまでとばっちりだ(--;; こんなとこで最強全体魔法なんか使わないでくれよ、義母ちゃん!」
 残る2人も巻き添えになった。ゲドが目を回しながら抗議する。
 ちゃっかり夫を盾にしてノーダメージだったジュディが、朋也を弁護する。
「大丈夫だよ、ご主人サマ。朋也は浮気なんてしてないよ。ボク、匂いでわかるもん♪」
「恩に着る、ジュディ……俺の味方をしてくれるのはおまえだけだっ」
 でも、手遅れになる前に言ってくれた方がよかったな……。
「その代わり……本当に浮気してご主人サマを泣かしたときは、ボクがこの手でたたっ斬るからな!」
「しないしない、絶対しない! 千里の魔法とお前の剣をダブルで受けたら本当に死んじまう(--;;」
(俺もよその女に手出して後でバレたら命がねえな……心しておこう)
 ジュディの形相を見てゲドがつぶやく。おまえ、浮気できるつもりでいるのか? 発作はもう治ったみたいだが。
「ふぅ、ジェネシス1発ぶっ放したらすっきりしたわ♪ 向こうの世界じゃ、どうせ魔法使えないしね」
 当の千里がケロリとして言ってのける。やはり本気で朋也とミオの関係を疑ったわけではなかったのだろう。2人への警告の意味はあったかもしれないが……。
「結局俺、千里のストレス解消に使われただけか(--;;」
「アハハ♪」
 さっきまで涙にくれていたジュディが声をあげて笑った。
「さっき泣いたカラスがもう笑ってる。やれやれだニャ」
 ミオがボソッと口にすると、また彼女の涙腺が緩んでしまった。せっかく泣きやんだと思ったのに……。
「ご主人サマァ……(T_T)」
「ハァ……もういい加減にしてよ……」
 ミオがため息を吐く。見るに見かねた千里が、ジュディの肩に手を置いて目を見ながら話しかけた。
「ジュディ……私は泣かないわ。さよならも言わない。だって、ほんの少しの間離れるだけなんだもの。大丈夫よ。3年なんてあっという間にすぎちゃうわ。また会える日を楽しみにしていれば、ね♪」
「そうさ。3年後、5歳に成長したあの子たちとまた会う日を想像するだけで、今からワクワクするよ! ヤンチャぶりもパワーアップしてるだろうけど♪」
 朋也もバックアップに回った。
「ね……だから、元気出して。涙を拭いて、私の大好きなあなたの笑顔を見せてちょうだい♪」
「うん……わかった。ボクもさよならは言わないよ。また必ず会えるんだものね。毎日カレンダーをめくるたびに、後何日でご主人サマと会えるって数え続けながら楽しみに待つことにするよ!」
 ジュディも涙を拭くと、最愛の人に微笑みかけた。
 ジュディが元気を出してくれたのを確認すると、千里は最後にもう一度じっと彼女の目を見つめてから、静かにそばを離れた。
 3年前のあの日と同じように、朋也と千里は階段を上ってゲートの上に立った。どちらからともなく手をつなぐ。
「2人とも達者でな! 次会うときは、おまえらもベイビーを連れてこいよ♪」
 ゲドにそう言われると、千里は少し間を置いてから意外な返事をした。
「……そうね……努力するわ。やっぱり、五つ子ちゃんたちと一緒に遊べる年代の子が欲しいものね♪」
 ちらっと朋也の顔をうかがってから頬を赤らめる。そんな彼女を見て、朋也はドキリとしてしまった。思わず握りしめる手に力がこもる。
「ベイビーニャンて要らニャイ! 連れてくんのはワンコとニャンコだけでいいわよ!」
 仲睦まじい2人の姿を見てイラッときたミオが噛みつくように言う。最初の手紙では、そっちもベイビーができたら教えてくれと書いてたくせに……。そんな彼女に、朋也は苦笑しながらお願いした。
「ミオ……今度会うときは、せめてもうちょっとマシなサプライズを用意してくれよな?」
「さあ、どうかしら。約束はできニャイわね……」
 そう言いながら、チロッと舌を出す。全然懲りてないようだ。
「そんなことより、ミオちゃんもさっさといいひと見つけて、身を落ち着けてちょうだいね? 私も朋也も〝親〟として安心できないから……」
 〝親〟というところを強調しながら千里が苦言を呈する。ミオはむきになって言い返した。
「余計ニャお世話ニャ!」
 次こそは彼を略奪してやると決意を新たにするミオだった……。
 時間が来た。朋也と千里の周囲を3原色の光が螺旋を描くように取り囲む。次第に景色がぼやけていき、見送りの3人の声も遠くなっていく。
「ご主人サマ、またね! それまでどうか元気で!!」
「ええ、ジュディ! また会いましょう!!」
 再会を誓う2人の声を最後に、朋也たちはエデンの地を離れ、元の世界へと還っていった──


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