朋也はマジマジとカイトを見つめ返した。驚きのあまり声も出てこない。
そんなバカな!? 彼はあのとき死んだはず──
「カ、カイト!? な……なぜおまえが生きて……!?」
たっぷり数十秒経過してから、朋也はやっと口を開いた。
「クックッ……まるで幽霊にでも出くわしたみたいな顔をしてるな、朋也。まあ、実際それに近いかもしれないけどさ。けど、このとおり僕はピンピンしてるよ」
相変わらずのキザったらしい言い方で彼は答えた。正真正銘本物だ。
「種を明かすと、キマイラに碧玉の力を授かったおかげで、僕の肉体は実質不死に近いんだ。神獣と同じく、再生まで時間はかかったけどね」
なるほど。まあ、それなら朋也も納得できる。
何しろあのときは、日食まで時間がなかったものだから、カイトの亡骸を彼が殺害したリルケとともに花畑に並べて置く以上のことはできなかった。帰途には見当たらなかったものだから、彼らはてっきり妖精たちが埋葬してくれたものと勘違いしていたのだ。
「キマイラをたばかったおまえが、いまここで何をやってる?」
朋也は探るような目つきでカイトを見据えながら問いただした。
「ああ……キマイラにとっちゃ、僕の裏切りも想定内だったみたいだよ。いまは二心もない従順な門番さ。紅玉が復活して神獣2頭も力を取り戻したし、何より〝彼女〟が去ってしまった以上、僕もやることがなくなっちゃったんでね……」
それに対し、カイトは1つため息を吐いてから自嘲気味に答えた。もっとも、最後の台詞には明らかに朋也に対するあてつけの意が込められていたが。
いったん目を伏せた後、今度はカイトの方が朋也を問い詰めた。
「そういう君は今更ここへ何しに来た? 神獣の勅命を受けて、許可なくここを通ろうとする者があれば、僕が好きに処分していいことになってるんだけど」
少し間を置いてから、朋也は単刀直入にレゴラスへ赴いた理由を述べた。
「無茶は承知で、もう一度ゲートを開いてもらうよう、キマイラと直談判に来たのさ」
カイトの朋也を見る目つきがさらに鋭くなる。
「キマイラが首を縦に振るはずはないし、いま現在は技術的にも無理な相談だが、一応聞いておこう。何の目的で?」
「千里にエデンへ来てもらい、代わりに俺がモノスフィアに還る。ジュディに幸せになってもらうために……」
朋也はここも明け透けに本音を伝えた。
それを聞いたカイトはしばらく黙って目を伏せていたが、再び開いた目にはある種の軽蔑の感情がこもっていた。
「……朋也……あのときの僕より愚かなことを言ってると、自分で思わないか? エゴを優先して世界を破壊するのかい? それが可能なら、僕自身がとっくにやってるさ! 君があの荒んだ世界へ追いやったミオを……僕のかけがえのない女性を取り戻すためにね!! 違うか!?」
しまいには声を荒げて掃き捨てるように言う。朋也はひたすら耳が痛かった。
「話にならないな……さっさと家へ帰りたまえ。君がミオを捨てて選んだイヌ族のワイフのもとへ」
そう言い置くと、カイトは踵を翻して立ち去ろうとした。
「頼む、カイト!! 俺がおまえにこんなことを頼めた義理じゃないのもわかってる! けど、俺は行かなきゃいけないんだ!!」
朋也はカイトの背中に向かって怒鳴った。彼の足が止まる。
「そんなに通りたいなら、力ずくで僕をどかせてみたまえ!!」
マントを翻しながら振り返ると、怒りの形相で朋也をにらみつける。
かくして、予想外にも再び相まみえた両雄の戦いの火蓋が切って落とされた。