謁見の間に続く扉の前に、全身黒のタイツに身を包み、漆黒の翼を持った鳥族の女性がこちらに背を向けて立っている。彼女はゆっくりと朋也とカイトの方を振り向いた。
「リ、リルケ!? おまえも生きてたのか!? てっきりレゴラスでカイトに殺されたものとばかり……」
「……僕もきっちりとどめを刺したつもりだったんだが?」
朋也と同じく、カイトも動揺を隠せないようだ。探るような目つきで、かつての同僚であり、裏切った相手である人物をにらみつける。
「そんな幽霊にでも出くわしたかのような顔をするな。私はこのとおりピンピンしているぞ」
……。台詞がカイトとほぼ同じだ(--;; かっこつけたがり屋なところはほんとよく似てるよな、この2人……。
「まあ、キマイラの霊力を得たおまえに急襲を受けて、深手を負ったのは事実だからな。分が悪かったから、とっさに羽の分身を使った空蝉の術でその場を脱したのさ」
リルケは種を明かしてみせた。抜き取った自分の羽に息を吹きかけると、手品のように数羽のカラスに早変わりして飛び立っていく。
それから、彼女は目を伏せてやや自嘲気味に付け加えた。
「戦線に復帰できずにいた間に日食が過ぎ、だれも予想しなかった形でアニムスをめぐる騒動は決着がついてしまった……。結局、私もカイトもただの道化で終わったわけだ……」
「……」
カイトも黙って目を伏せる。2人に共通する諦観にも似た表情は、ともに目的や使命感を失い、同じように本意に沿わない空虚な3年間を過ごしてきたことを意味しているのだろう。互いに死闘を繰り広げた仲だが、性格のみならず、境遇の点でも2人には一致するものがあった。
しばらく間を置いてから、朋也が尋ねた。
「君がここにいるってことは、神鳥の警護をしてるのかい?」
「そのとおりさ。我々カラス族はそもそも神鳥の臣民だからな。本人は警護なんて付けなくていいと言うし、世界最強の神に護衛なぞ無粋だが──」
そこで2人を見る視線がにわかに剣を含んだものに変わる。
「再びゲートを開こうなどとおかしな企てを謀る2人組がこちらへ向かっていると、レゴラスから連絡があったものでな」
「キマイラの奴、告げ口しやがったな(ーー;;」
舌打ちしながら朋也が言った。まあ当然かもしれないが。
「いいさ、朋也。彼女にもどいてもらえばすむ話だ」
「おもしろい、どかせられるものならどかしてみろ。私も神鳥の霊力を得ている。あのときの借りを返してやろう!」
リルケはカイトをきっとにらみつけながらサーベルを構えた。
「別に君に興味なんてなかったから、あのときは死体が本物かどうか気にもしなかったけど、今度はきっちり黄泉の国に送ってあげるよ!」
同じくカイトも爪を掲げながら鋭い目でリルケをにらみ返す。
2人を見比べながら、主役のはずの朋也は肩をすくめて言った。
「俺、なんか関係なくなってない?」