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 ジュディの妊娠発覚により朋也が決意の旅に出て以来、モンスター戦を除き3度目となる本格的な戦闘だったが、リルケとの戦いも割と早く決着がついた。カイトのときほどあっさり勝てたわけではないが。
「……君、いま神鳥の力を使わなかったね」
 対戦者をじっと見据えながら、カイトがつぶやく。彼が指摘したとおり、神鳥から分譲された霊力を用いていたなら、2人とももっと苦戦を強いられ、あるいは退けられていたかもしれないのに。
「言い訳はすまい。負けは負けだ。命の保障はしないが、通りたくば通ればいい」
 カイトの問いにリルケはあっけらかんと答えた。それから1拍置いて、彼女は朋也に目を向けた。
「だが、その前に……朋也、ひとつ聞いておきたい。いまさらゲートを開いてどうするつもりだ?」
「あの時おまえたちにさらわれた〝鍵の女〟──千里に、エデンに再び来てもらう。ジュディが……俺の妻が、彼女の存在をだれよりも必要としているから……。そしてその代わり、俺がモノスフィアへ還ることにするよ。リルケがこちらの世界へ来るきっかけを作ったニンゲンの行いを正すために……」
「なるほど……おまえらしいな。エデンとモノスフィアのリンクが切れた以上、あの世界を放置したとて我々に影響はない。おまえが義理立てする理由もないと思うが……」
 朋也が答えるのをリルケは黙ってじっと聞いていたが、彼の悲壮な決意を聞いたためか、いつも無愛想な彼女の声にはやや同情のトーンが含まれていた。それから、リルケはさらに驚くべき提案をしてきた。
「〝鍵の女〟も、おまえの妻も、種族は違えど強い意志と勇気を備えた同性として、私は尊敬している。2人のためなら、私も一肌脱ごう」
「えっ……それって……!?」
「私もおまえと一緒に神鳥に掛け合ってやる」
 彼女の口からジュディに対するリスペクトの念が聞かれるとは思いもしなかった。3年前のリルケは朋也たちの敵であり、誘拐の実行犯でもあったが、自らを犠牲にしてでも互いを思いやる千里とジュディの2人の姿を目の当たりにして、彼女も感じるところがあったのだろう。
「フェニックスはキマイラと違って情に厚いが、怒らせると恐い相手だからな。私の顔が利くだけでも多少は違うはずだ。こいつのように信用の置けない輩がいると、余計な不興を買いかねんしな」
 カイトの方をジロリと一瞥する。彼の方もムッとして言い返した。
「おやおや、おしゃべりなだけのカラスが本当に役立つのか?」
「少なくともネコかぶりよりはな!」
 2人の視線の間に火花が飛び交う。このままでは対戦の続きをおっ始めかねないので、朋也はあわてて仲裁に入った。
「お互い因縁があるのはわかるけど、頼むからいまは仲良くしてくれよ」
 こうして、ほんの一時の間とはいえ、朋也、カイト、そしてリルケという、ある意味エデンで最強といえる3人パーティーが結成されることになった。本当の最強トリオは、朋也の代わりにジュディが加わったパーティーになるだろうが。
 リルケの案内のもと、朋也たちは3神獣中最強と謳われるルビーの守護神鳥・フェニックスとの対面に臨んだ。


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