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「やった!! ありがとう、フェニックス!」
 やっぱりキマイラよりフェニックスの方が潔いやと思いながら、笑顔で頭を下げる。
 神鳥が回復してくれたとはいえ、気力の方がすっかり底をつき、朋也は今にも膝からへなへなと崩折れそうだった。だが、心は晴れやかだった。カイトとリルケが両側から彼の背中をたたく。
 フェニックスはじっと朋也の目を見つめながら問いかけてきた。
《……朋也……最愛の者との別れを意味するのに、あなたはなぜそんなふうに心の底から笑うことができるのですか?》
「俺は、ジュディが幸せになってさえくれればいいんだ。他には何も要らないから。本当に……》
 朋也は目を伏せながら答えた。
 神鳥は黙って何か考えているようだったが、おもむろにこう言ってきた。
《……私とキマイラでできる限りの手は打ちます。まずは1人1人の気持ちを確かめなさい。結論を急ぐことはありません》
「ああ、わかったよ……」
 そう答えたものの、朋也は今後結論が変わることがあるとは思えなかった。
《では、これからゲートを開くために2つの世界のリンクを再び結び直します。危険だから、あなたたちは下がっていてちょうだい》
 さすがは神鳥、やることがとにかく早い。この辺もキマイラとは対照的だ。
 朋也たちは謁見の間となっている火山の大空洞から脱出すると、いったん神殿の外へ出た。神殿の背後にそびえ立つオルドロイの山頂を見上げる。
《ルビーのアニムスを守護する神鳥として、私は万物の理を書き換え、2つの世界をつなぎます。朋也とジュディの時空を超えた愛を祝福して!》
 神鳥の声が響き渡った。すると、山全体が大噴火の前兆のように鳴動し始めた。3人が息も詰めて見守る中、噴火口から巨大な光の柱が立ち上り、天頂目掛けてぐんぐんと伸びていった。柱の先は成層圏を突き抜けているに違いない。まさに天文学的スケールの現象だ。次元を越えて2つの宇宙をつなぐのだから、このくらいの規模でも何の不思議もないのかもしれないが。
「……俺たち、あんな力を持った神相手に戦いを挑んだのか……。無謀なんてもんじゃなかったな……」
 朋也は呆然としながらつぶやいた。
「確かにな」
 リルケが苦笑しながら言う。カイトはただ肩をすくめた。
 どのくらいの時間が経過しただろう。光はやがてオーロラのように薄れて消えていった。
 神鳥の声が聞こえる。
《これで作業は完了しました。千里とミオには私から直接メッセージを送りました。クレメインのゲートまでお行きなさい》
 ついに念願がかなった。後は千里とジュディを引き合わせればミッション完了だ。朋也は瞼を閉じ、2人が喜び、抱き合うシーンを思い浮かべた。
「さっさとクレメインに行ってこい。私がタッチするのはここまでだ。もう神鳥様を煩わせるんじゃないぞ。私は戻ってもう1度詫びを入れてくる。クビになってもおかしくないところだからな」
 朋也は立ち去りかけたリルケに駆け寄り、ぎゅっと手を握った。
「ありがとう、リルケ。本当に助かったよ!」
 リルケは熱烈なハグを交わしねない朋也の勢いに苦笑していたが、片手を振ると神殿の中に入っていった。
「じゃあ、僕もお暇するとしようかな。後は君1人で片付けられるだろ」
 続いてカイトが朋也に言った。マントを翻して立ち去ろうとする。リルケに対してと同じく、朋也は無理やり両手で彼の手をつかみながら頭を下げた。
「ありがとう、カイトも。君のおかげでここまで来れた。なんとお礼を言っていいか……」
 カイトは勘弁してくれと言わんばかりに手を離すと、うんざりしたように言った。
「僕はミオを取り戻すという自分の動機に従って行動したにすぎない。君に礼を言われる筋合はないよ」
「ああ、そうだ、ミオが来たら、カイトはどこにいるって伝えればいい?」
「君は余計なお節介を焼かなくていいよ。僕たちは運命の恋人だ。必ず出会うと決まってるのさ」
 そう答えると、麓に続く道へと歩き去っていく。
 途中でカイトはもう1度振り返って朋也に言った。
「それから、朋也……僕も神鳥と同じ意見だ。別れなければならないと今から決め付けることはないだろ。召喚した2人ともよく話し合ってみた方がいいよ。彼女が本当に大事ならね……」
 カイトの後姿を見送りながら朋也は思った。ハハ、どっちがお節介だか。でも……一度は宿敵として火花を散らした相手だけど、2人とも本当にいい奴だな──


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