「う……えぐ……」
ジュディは病室のベッドで横になりながら涙に暮れていた。
周期的に吐き気に襲われ、一日中全身がだるい。今はもう起き上がる気力もない。
自分の身体が自分のものでなくなったような気がした。自分の心も変わってしまった。心と身体が分裂してしまったような気がした。
こんなのボクじゃない。市民を守り、生徒たちを導く凄腕の剣士ジュディじゃない。これじゃ、一体何のためにエデンに残ったのかわからない。
今はただ、朋也の顔が見たかった。もう1週間も会っていないなんて信じられない。彼は遠征に行くとだけ言い残してどこかへ行ったきりだ。
こんな自分の姿を見て愛想を尽かしちゃったんだろうか?
朋也がクルルと浮気してると疑うなんて、我ながら本当にバカだったと思う。
もう戻ってきてはくれないんだろうか? 彼にギュッと抱きしめてもらうだけで心の底から安心できたのに、もう触れることさえかなわないんだろうか?
朋也がそばにいてくれないのなら、ボクはもう──
病室のドアがバタンと開いた。息を切らしてやってきたのはクルルだ。
「ジュディ!! 朋也がやっと戻ってきたよ!!」
「朋……也が……!?」
帰ってきてくれた。もう会えないのかと思っていた、今の自分にとって一番大切な人が。鼓動が高鳴る。
ジュディは自分に鞭打って無理やり身体を起こし、フラフラしながらベッドから立ち上がろうとした。
クルルが彼女の身体を支えようと前に出たとき、再びドアが開いて朋也が現れた。
「ただいま! ごめんな、ジュディ。おまえが大変なときに何日も家を空けちゃって」
彼はいつもと変わりなかった。出張が1日伸びて妻に謝る会社員の夫の体だ。
だが、ジュディにはわかった。身体には真新しい傷がいくつもできているし、装備もかなり傷んでいる。何気ないふうを装っているが、疲労の色も隠せずにいる。数日の演習、雑魚モンスターとちょっと戦ったくらいでこうはならない。相当厳しい戦いをくぐり抜けたのは間違いなかった。
クルルの目も気にせず、ジュディは朋也にしがみつくと額を押し付けながら涙声で言った。
「朋也……戻ってきてくれたの? ボクがバカなこと言ったせいで、捨てられちゃったんじゃないかって……」
それを聞いた朋也は笑いながらジュディの頭をなでた。
「ハハ、バカだなあ。俺がそんなことするわけないだろ? それより、今日はサプライズのお客さんがおまえのお見舞いに駆けつけてくれたんだ。」
きょとんとして彼の顔を見上げる。え? 誰だろ……ルドルフのお爺さんかな? それとも、もしかしてウー神か奥さんだったり?
朋也は後ろを振り返って声をかけた。
「いいよ。入っておいで!」
彼の後ろに2人の人物が現れる。ジュディは驚きに目を見張った。
「ご……ご主人サマ……それにミオも……」
あまりに信じられなくて、何度も目をこする。
「嘘だ……ボク、きっと夢を見てるんだ……そうに決まってる……」
涙がにじんできて目の前がかすみ、2人の姿がまたぼやけ始めた。ギュッと瞼をつぶって涙を押し出す。けれど、もう1度開いたら2人の姿は消えてしまうかもしれない。それが怖くて、目が開けられない。
「ジュディ……夢じゃないわよ……あなたに会いに来たの……朋也が奇跡を起こして、もう1度あなたと会わせてくれたのよ……」
千里が声にならない声で呼びかける。
「ご主人サマ……!」
それ以上こらえきれずに、2人はひしと抱き合った。
朋也は目を細めてそんな2人を見守った。隣にいたミオと目が合う。
2人は無言でうなずくと、クルルとともに病室を出ていった。