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「千里とAHTのみんな、後輩の研修医たち、ボラさんたちに頼んで、なんとか病院は回していけることになったけどぉ……朋也は本当にあたしについていくつもりぃ?」
「ああ。エデンの一大事とあっちゃ君を止めるわけにはいかないけど、俺も一緒に行くのが条件だよ。もちろん、役にも立つつもりさ」
 遠慮がちに尋ねたマーヤに朋也がきっぱりと答える。
「悪いわねぇ~……」
 彼女は今度はミオの方を振り返った。
「ミオはどうするぅ~? ジュディと一緒に千里の家で待っててくれてもいいわよぉ?」
「ニャァ~ン!」
 ミオは戸棚から飛び降りると、尻尾を高々と掲げながら2人に向かって鳴いた。「あたいを置いてくニャンてニャしニャ!」という明確な意思表示だ。
「行くってさ。じゃあ、さっさと事件を解決して、なるべく早く戻れるようにしよう。俺たちの病院へ!」

 朋也、マーヤ、ミオの3人(2人と1匹)は、6年前に通過したゲートをくぐって〝もう1つの世界〟エデンへと渡った。朋也とミオにとっては2度目の訪問、マーヤにとっては懐かしの故郷への里帰りである。
 めくるめく閃光と轟音が収まり、辺りの様子を確認する。3人は深い森の中にいた。あのときと同じクレメインの森だ。
 だが、転移場所以外のことで予想外の出来事が2つ起きた。
「あっ!? エデンに着いた途端、マーヤが妖精の姿に戻った!?」
 朋也の隣にいたのは、ゲートに乗る直前までの、少なくとも外見上はヒトと変わらない姿を手に入れた彼女ではなく、蝶によく似た形で七色に光る羽を持つ妖精だった。服装までレオタードっぽい妖精の衣装に変わっている。身長はSSクラス並、つまり今と同じではあったが。
「寿命も霊力もニンゲンになったらもう戻らないとか言ってたくせにぃ、キマイラ様ったらほんとに嘘つきねぇ!」
 マーヤはプンスカ頭から湯気を立てて怒った。まあ当然かもしれない。6年前、アニムスをめぐる騒動の後、マーヤは朋也とともにモノスフィアへと旅立つ一大決心をし、ニンゲンに改造してくれと神獣キマイラに直訴した。そのとき彼が示した条件が、千年の寿命も魔力も失うことだったのだから。
「あのキマイラのことだから、万が一に備えて保険をかけてたんでしょうけどね……」
 そう解説したのはミオだ。
「そういうおまえはしれっと成熟形態に変身したな……」
 彼女の場合、エデンに来さえすれば本人の意思次第で変身できるので、別段不思議なところはないが、朋也はそのことを失念していたので心の準備ができていなかった。
「これで朋也にハグし放題ニャ~♪ ねえ……キスして? 別にいつものことニャンだから、気にすることニャイでしょ♥」
 そう言って朋也の首に腕をからめてくる。
「こらぁ~~っ! ミオったらぁ、その格好でいる間は朋也へのお触りは禁止ぃ~!!」
 マーヤがミオの腕を引っ張って朋也から引き剥がそうとする。
「ニャによ、向こうじゃいつも彼を独占してるくせに! そんニャこと言うニャら、カツブシまぶして食ってやるぞニャ~!」
「SSクラスに昇格して身長も伸びたんだから、そんな簡単に捕まらないわよぉ~だ! 食べられるもんなら食べてごらんなさぁ~い、ベロベロベェ~♪」
 2人がケンカを始めたため、朋也はあわてて仲裁に入った。
「おい、2人ともやめろってば! まったく、向こうにいた間はあんなに仲睦まじかったのに……」
「お触りは?」
「う……えっと……とりあえず、トラブルが解決するまでは、2人とも過度のスキンシップは禁止ということで……」
 朋也の提案に2人は渋々うなずいた。
 3人は転送台を降りると、近くの茂みを調べた。
 目的のものはすぐ見つかった。オーギュスト博士が製作した3人乗りの自走車・サファイア号だ。3人がモノスフィアに旅立つとき、レゴラスからクレメインまでの旅路で乗ってきたものだった。
 調べてみたが、放置していた6年の間に腐食もせず、エンジンもちゃんと動作した。燃料も鉱石と太陽光なので問題ない。
「よし、じゃあひとまずレゴラス神殿へ行こう。2人とも乗ってくれ」
「ラジャァ~♪」
 ミオとマーヤが左右のサイドカーに着席すると、朋也はサファイア号を発進させた。


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