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 4人は港町ポートグレイに戻ってきた。
 サファイア号は街の城壁のそばに駐車してある。3人乗りなので、リルケが加わった時点で定員オーバーだ。
「そんな狭い乗り物に押し込められる気はない。私は1人で空を飛んでいく。その方がよっぽど楽だからな。先にフューリーのゲートの前で待っているぞ」
 彼女はそう言い置くと、3人の返事も聞かずに西の空に飛び立っていった。
「ったく、鳥の足は身勝手でわがままニャンだから!」
 小さくなっていく黒い点を見送りながら、ミオが苦々しげに言った。ううん……おまえが言えた義理じゃないと思うけど……。
「まあそういうなよ。サファイア号には3人しか乗れないから、気を利かせてくれたんだろ」
「あの女にそんニャ気配りニャンてできニャイわよ!」
 ミオとリルケはやっぱりどうしても反りが合わないようだ。敵じゃなくなったんだから、そんなに噛みつかなくてもよさそうなもんだが。
 3人はサファイア号で西を目指して出発した。リルケをあまり待たせるわけにはいかない。
 だが、砂漠を進むうちにタンクの残量を示すメーターが下がってきた。モノスフィアの自動車に比べれば燃費は圧倒的にいいが、さすがに補給なしで500キロを往復するのは無理みたいだ。
 彼らは仕方なくシエナの街に寄り、燃料用の鉱石を入手することにした。
 街の様子は表面上6年前と大きな変化はなかったが、人口がかなり増えていた。聞くと、いずれも三獣使に被害を受けて南方の集落から逃げてきた避難民だという。特にイヌ族が多いのは、ダリの街がサル型の三獣使に襲われたためだ。犠牲者もたくさん出たらしい。きっとサンエンキマイラだろう。新妖精長のクーデター騒ぎに、元からの住民も不安を隠せない。
 妖精たちも忙しなく働いていた。彼女たちはテレーゼの招集命令に従わず、市民の安全を守るために残ってくれた者たちだ。だが、半数はテレーゼについてフューリーへ去ってしまったという。キマイラの権威もかたなしだ。
 ゆっくりしてはいられないと、補給が済み次第3人は再び出発した。
 フューリーに通じるゲートはシエナから南東60キロの地点にある。しばらく進むと、破壊された家屋の残骸が目に入ってきた。マーヤがルビーのアニムスを再生させて以降、モンスターの脅威も減ってきたため、住民たちは城塞都市の周辺に入植し始めたのだが、テレーゼの反乱によりそのことが裏目に出てしまった形だ。
 それらはいずれも石造りの頑丈な作りだったが、壁や屋根が原型をとどめないほど粉砕されていた。まるで巨大なブルドーザーか何かに押しつぶされたようだ。
「これはきっとレプトキマイラの仕業ねぇ」
 残骸の1つを見ながらマーヤが言った。
 6年前、朋也たちは三獣使のうちの2頭には出くわしている。1頭はエルロンの森の中にある妖精の隠れ里を急襲したサンエンキマイラ。もう1頭はレゴラス神殿の上層で門番をしていたオメガキマイラだ。レプトキマイラには朋也とミオは会っていない。
「どんなやつ?」
「あたしは全然関係ない部署に務めてたから、そもそも三獣使について詳しく知らないんだけどぉ、レプトキマイラは爬虫類のキメラよぉ」
 話しながらさらに先へ進んでいると、前方、すなわちゲートのある方角で砂塵が巻き起こっているのが目に入った。ときどきチラチラと魔法らしい閃光も見える。
「もしかして、リルケがすでに戦ってるのか!?」
「朋也、急いでぇーっ!」


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