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 サンエンキマイラは左右の拳を振り上げながら襲いかかってきた。レプトキマイラとは対照的に、身のこなしは相当素早い。
 物理的な攻撃も破壊的だったが、厄介なのはやはり状態異常系の特殊攻撃だった。
 三獣使共通の特性として、サンエンキマイラも3つの頭部を持っている。もっとも、レプトキマイラの3頭は曲がりなりにもヘビ、ワニ、カメらしかったが、サンエンの3頭はそれぞれ巨大な目、耳、口が1つずつ付いているのみで、体型がサルっぽいといっても地球上の生物とは似ても似つかない。
 そして、その目からは石化付加の怪光線、耳からは混乱付加の超音波、口からはスタン付加の奇声を放ってくる。耳から超音波というのも変な話だが。
 このうち、石化攻撃に対しては耐性防具のキャッツアイが人数分あるため、ダメージだけで済む。しかし、残り2つの状態異常も、石化ほどシビアではないとはいえ、対処を怠ると命取りになる。
 超音波が引き起こす混乱は敵味方の見境がつかなくなるという代物ではないのだが、平衡感覚が失われてしばらくの間行動不能になる。無理に攻撃を仕掛けようとすれば、やはり間違えて味方に当たってしまう可能性大なのだが。
 全体回復・治癒スキルを持ち、すべての状態異常に強い耐性がある最上級妖精のマーヤは回復役として事実上待機せざるをえない。攻撃役を引き受けるのは必然的に残り3人ということになる。
 だが、サンエンキマイラは自身の3つの攻撃手段が遠隔のうえ、両手のリーチが長いので防御範囲が広い。懐に飛び込んで近接攻撃を仕掛けるのは至難の業だ。体力と防御力に特化したレプトキマイラとは攻略難度が段違いだ。
急襲を受けた6年前のフェニックスの里でのオリジナルとの戦闘では、戦術を練る余裕などなかった。それでも短時間に圧勝できた理由は2つ。こちらに魔力に秀でたマーヤと千里のコンビがいたこと。そして、罪のない隠れ里の妖精やフィルをその手にかけたことで、朋也たちの怒りのボルテージがMAXに達したことだった。
 ミオもリルケも魔力は比較的高い方だが、使える攻撃魔法が限られている。朋也は妖精スキルのおかげで多少魔力もついたものの、そもそもほとんど魔法が使えない。しかも、レプトキマイラと同じく、テレーゼに複製されたクローンのサンエンキマイラはオリジナルよりかなり高い魔法防御力を備えていた。
「それぞれ3頭のターゲットを絞って三方から仕掛けるぞ。私はスタンに強いから口をやる。猫娘は目、朋也は耳を頼む」
「指示はあたいが出すって言ってんのに!」
 リルケが鋭く指図する。ミオは文句を言ったが、それでも3人は担当の部位に合わせてサンエンキマイラを囲むように配置についた。
「バックアップは任せてねぇ~」
 後衛からマーヤが声をかける。
 3人は一斉に攻撃を開始した。それぞれのスタイルで首を狙う。ミオとリルケは敏捷性でサンエンキマイラに勝るし、朋也は弓でリーチの外から攻撃できる。2つの腕では3つの頭をかばえない。
だが、読みが少々甘かった。
「オデ様ヲナメルト痛イ目ヲ見ルゾ! ききき!」
類人猿の特性を備えたサンエンキマイラの腕は2本ではなく4本だった。後肢または前肢の1本で身体を支えれば、残り3本の〝腕〟は自由に使える。ここが重力の小さいフューリー上であることも裏目に出た。結局、司令塔となる3つの頭には効果的なダメージを与えきれない。
「フギャッ!」
 サンエンキマイラが伸ばしてきた左の拳にミオが跳ね飛ばされる。サンエンは河童みたいに左右の腕の長さを芸当も使えたが、今は足の分も注ぎ足して3倍にしてきた。朋也が彼女をかばっている間に、マーヤが回復魔法をかける。
 ガードが下がったところを狙い、リルケが特攻を仕掛けた。
「松果突!!」
 だが、サンエンキマイラの方が一瞬早かった。左右の頭がぐるりと回り、大口頭にサーベルを突きつけようとしたリルケに向く。
「ぐわっ!」
 鳥族のリルケは地上性の種族よりスタンに強いが、平衡感覚麻痺とセットで食らうと隙が生じるのは否めない。
 態勢を崩した彼女を、3本の腕が襲う。
「束射!!」
 朋也が腕の1本を狙って矢を放つが、彼女に当たらないよう正確に照準を定めようとすると、その分どうしても時間がかかる。
 とうとうリルケはサンエンキマイラに捕らえられてしまった。
「くっ……」
「妖精ノ羽ハモウサンザン毟ッタカラナ。一度鳥ノ羽モ毟ッテばらばらニシテヤリタカッタンダ」
 1つ目をニタリとさせ、大口を開けてゲラゲラ笑う。サンエンキマイラはリルケの両の翼をぐっと掴むと、力任せにもぎ取ろうとした。
「リルケッ!!」
「鳥の足っ!!」
 朋也たちの叫びも空しく、リルケの身体が引きちぎられた──
 かと思いきや、無数の黒い羽毛が飛び散っただけで、リルケの本体はどこにも見当たらない。
「どこを見ている?」
「!?」
 彼女はサンエンキマイラの背後にいた。いつのまに!?
「無影突!!」
 相手に振り向かせる暇もなく、カラス族の奥義が炸裂した。無数の突きが3つの頭を貫く。
「バカ……ナ……! 確カニ……コノ手デ……引キ千切ッテ……ヤッタ……ノ……ニ……」
 サンエンキマイラの身体は緑の光の粒となって蒸発していった。


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