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 朋也たちはホッと胸をなで下ろしてから、2度目のサンエンキマイラ撃破を果たしたリルケに近づいていった。
「さすがねぇ~♪」
「ふう、さすがに肝を冷やしたよ。今のが空蝉の術かい?」
 一体どのタイミングで入れ替わったのだろう? 朋也にはさっぱり気づかなかった。ある意味、美女の胴体切断マジックみたいなものかもしれないが、間近で一部始終を目にする身には心臓にこたえる……。
「ああいう手合いには、死ぬ前に自分の間抜けぶりを思い知らせてやってもよかろう」
 リルケはひとつうなずくと、まったく苦戦などしなかったようにとりすました声で答えた。
「ああ、心配して損したニャ! そういうトリック使うニャら仲間には先に言っときニャさいよ!」
 ミオが不機嫌そうに言う。ほとんど彼女1人の手柄になったことも面白くないのだろう。
「そうか。それは悪かったな。だが、戦闘には臨機応変の対応がつきものだ。敵を欺くにはまず味方からというだろう。慣れておくんだな」
「きーっ、次に同じ目に遭ってももう助けてやんニャイんだから!」
 後ろで見ていたエイミーたち妖精の間からも歓声があがった。仲間たちの前では仏頂面だったリルケだが、ここでやっと笑顔になり、観衆に向かって手を振って応える。
 再び3人の方に向き直ると、彼女はいつもの冷たい命令口調で言った。
「後の1頭もこの先で待っているだろう。気を引き締め直して行くぞ」
 それから、朋也たちは1階層ずつフューリーの中を移動していった。
 途中、何度か妖精の部隊が4人の行く手を阻もうとしたが、エイミーと同じように説得に応じてその場をどいてくれた。今回、妖精仲間を傷つけずに済んでいるのは、マーヤと朋也にとってとてもありがたいことだ。ただ、彼女たちの中にSクラス以上の妖精はいなかった。全員テレーゼとともに管理塔に立てこもっているのに違いない。
 ついに朋也たちは7階層と最上階の8階層をつなぐエレベーターのところへやってきた。
 予想通り、そこには最後の三獣使オメガキマイラが待ち受けていた。
 オメガキマイラも他の2頭同様3つの頭を持つが、縦に3つ並ぶ形でつながっている。上から順に、コウモリ、モグラ、トドだ。おまけに、3体は分離可能だった。
「我輩ハてれーぜ様ノ三獣使ガ1人、おめがきまいらナルゾ。てれーぜ様ニ盾突ク愚カ者メ。ココデ我輩ニ殺サレルカ、我輩ニ始末サレルカ、我輩ニ粛清サレルカ、好キナ方ヲ選ベ。オマエタチノ死体ハきまいらニ送リ返シテヤロウ。クカカカカ」
 性格も三獣使らしく破綻している。前回出くわしたのはレゴラス神殿の最深部、玉座の前で門番の役を果たしていた。ここでもテレーゼに最後の砦を任されているのだろう。
「こいつらって3体が合体してるんだろ? てことは、全部合わせて5体いることになるよな……。なのに、なんで五獣使じゃなくて三獣使なんだ?」
 どうでもいい話だが、朋也はちょっと疑問に思ったことを口にしてみた。
「知らなぁ~い。キマイラ様ってそういうとこいい加減よねぇ~」
 マーヤが肩をすくめて答える。ミオまでつっこんできた。
「それに、オメガキマイラニャンて、名前だけ聞くとキマイラより強そうだニャ♪ ネーミング間違ってるわよね。αβγωってニャンかネタでもあるのかしら?」
 3人の無駄話はオメガキマイラ当人にも聞こえたようだ。
「オシャベリトハ余裕ダナ。我ラハ確カニきまいらヨリ強イ! 我ラノ恐ロシサヲ身ヲモッテ思イ知レ!」


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